哲学

【ATALANTA FUGIENS】「逃げるアタランテ」EMBLEMA Ⅰ.〜風が彼を腹の中で運ぶ

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"Portavit eum ventus in ventre suo."

ボレアス

ギリシャ人は風に人格を与え各方角から吹いてくる風に名前をつけた。北風はボレアスという名の神である。ボレアスには生殖能力があると考えられ、プリニウスに至っては、雌馬の尻を北風の方に向ければ子を孕むとさえ記した。

北風は冬吹いてくる寒い風だが、冬になると樹々は枯れて枝だけになるので死を連想させる。しかし期間のスパンを考慮に入れると、反対にこの風が大地の翌年の実りを孕ませるのだと言えなくもないではないか。

また聖書の言葉だが「あなた方は風がどこから吹いてどこへ行くのか知らない。霊によって生れる者もそのようである」とある。また古代人は風なくして何事も起きず何物も発生しないとまで断言した。

古代人といってもたかだか2000年前に地上に住んでいた人たちであり、2000年など半世紀の40倍でしかなく、100年の20倍でしかない、さほど遠い昔の話ではないのだ。

人が50年生きるのがどれだけあっという間か、また今の世の中100歳まで生きる人が珍しくないのも事実だ。ウチの実家にも100歳近い婆さんがいる。この婆さんを20人並べれば2000年前に遡るというわけだ。

ダイモン

ボブ・ディランの歌にも風の中に答えがある、などという節がある。またカルタゴ(今のチュニジア共和国にあった町)の古代教父聖アウグスティヌスをはじめ、昔の人は”ダイモン”の存在を確信し、それらの存在は風の中にいると信じられていた。

”ダイモン”はプラトンの本に良く出てくるが、一種の”鬼霊”とでも訳そうか。アウグスティヌスの場合は”ダイモン”(Daemon)は悪魔(Demon)と同じ意味で使用される。すなわち風イコール悪魔である。

神託

風の声に耳を傾ける、なんてたまに聞くが、私は忙しい皆さんにはそんな時間はないだろうと思う。だがもし暇があり開けた土地で風の音に耳を済ますことが出来るならばやってみてほしい。風には声がある。それは何かを語っている。

語っているのは風だけではなく自然全体なのだが、風は「ひゅうひゅう」とか「びゅうびゅう」とか「ごおごお」など実際音なので聴覚で聞きやすい。古代人は風に揺すぶられる木を見て神託を得た。まあ古代人は鳥でも生贄の内臓でも神託を取るから、若干いかがわしいとしても。

ただ「逃げるアタランテ」1枚目のエンブレムで学びたいのは、風は実体であるということ;それも人と物両方の事物を決定する強烈な素因であるということである。デカルトも言うように自然に空虚は存在しない。海が水で埋まっているように、陸地は空気すなわち風で満たされている。

魚が水の中を泳ぐように、鳥が空気の中を泳いでいるのが見えないだろうか;ならば我々人間もまた空気の中を泳いでいる魚のような者ではないのか。そして空気すなわち風には悪魔が住んでいる。

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【ATALANTA FUGIENS】「逃げるアタランテ」学習1回目〜表紙・ヘスペリデスの庭園

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