”3倍偉大な”の意味のトリスメギストス。太陽の光に隠され決して姿を見せない水星にも喩えられる、錬金術の神ヘルメスの教えについて。
「秘密」
「秘密」は沈黙に相通じる。むしろそれは、語ることができないからこそ秘密と呼ばれるのである。
話したいけど我慢する、明かせば不都合だから隠す、といった性質のものではない。
誓い
ヘルメス・トリスメギストスは、弟子にその教えを秘密にすることを誓わせる;伝えることのできないもの、言葉で言い表すことの不可能なもの。
それは死にも似ている。なぜならいま生きている人間は誰も1度も死んだことがないからだ。死んだらどうなるか、あの世へ行って戻ってこない限り誰にもわからないし、教えることもできない。
現代では医療技術が発達しており、心臓が止まったり呼吸が止んだ人間を蘇生させることがある。だが一時的に死ぬのと、本当に死ぬのでは意味が異なる。
変移
身体は元素から形成され、死ぬと分解し再び元素へ還る;この美しい変容”TRANSMUTATION”の現象を、なぜ恐れる必要があろうか。
また人類の歴史が始まって以来、これまで死んだ無数の人間たちが、いま誰も生きていないという事実;これほどの数の人間たちが死んできたというのに。
命を惜しむのは浅はかだ。人の寿命は生まれた時に、7つの惑星の運行によってすでに決定している。
ヘルメス
それでも秘密を知った人間は、自分がヘルメスの掲げる明けの明星のようになれれば、と考える;出来ることならまだ”知らない”人間の星になりたいと。
あたかもそうすることが神々の心に叶う善い行いでもあるかのように;こうして古代の詩や芸術が生まれた。
芸術
”モーゼ五書”を宗教から切り離し芸術作品として見るならば、立派に鑑賞に耐え得るものだということがわかると思う。
また仏陀も多くの言葉で何かを伝えようとしているが、それを知ることができるかどうかは各個人に委ねられているのである。
ソクラテスは対話においてああでもない、こうでもないと生徒を翻弄する。何とかして”言葉で言い表せないもの”に、未熟な若者を近付けてやりたいかのよう。
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ヒエログリフ
古代エジプトの象形文字は2種類あった;ピラミッドや棺桶に刻まれる神聖文字(ヒエログリフ)。パピルス筆写用のヒエラティック。
庶民が容易にこれらの文字を読むことができないように、神官は「マルドロールの歌」のような複雑難解な文法・文字を使用した。
このようにしてエジプトでは一般民は高度な知識から遠ざけられ、軽薄な好奇の目から隔離されながら「秘密」は守られてきたのだった。
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