ミヒャエル・マイヤーが1617年に出した錬金術の代表的な本「逃げるアタランテ」は色々なサイトで取り上げられているので、ここで重複する内容は報じない;
以前にフーガの曲が付いている事については記事にしたことがある。今度のシリーズは一度読んだだけでは意味がよくわからないこの本を、表紙と50枚の絵を見ながら中味を復習しようという試み。
*(絵も日本語訳本文もネットで無料で観れるので掲載はしません)
【逃げるアタランテ】フーガ50曲・錬金術師の美しい旋律「アタランテー遁走曲」
表紙
表紙はギリシャ神話の「逃げるアタランテ」関連の絵である。つまりアタランテは足の速い美女で、競争で男と勝負し勝った者に身体を与えると言い、男が負けた時は殺していた。
この女に競争に勝つためには、ヘスペリデスの森の竜が守っている黄金の林檎が必要である。この林檎を得ることはヘラクレスの難行の1つに入るほど困難だが、ヒッポメネスはアフロディーテーから黄金の林檎を授かる。
競争の時ヒッポメネスは3個の林檎を次々と投げ、アタランテはそれを拾うために遅れ、男が勝つ。二人はキュベレーの神殿内で交わるが、それが女神の怒りに触れ二人は二頭のライオンに変えられる。以上。
アリストテレス
「逃げるアタランテ」は錬金術の本なのだが、ギリシャ神話が数多く取り上げられており神話の解説書みたいである。また物質の化学反応について論じていても、現代科学のように明瞭な分野としてでなく、哲学と詩の中間的なものとして書かれている。
そういう部分はアリストテレスの「気象論」という本にかなり近い。というか時代柄、全体的にアリストテレスっぽい文体である。錬金術が求めるのは愚か者の黄金ではなく哲学的な黄金なのだから、何を目的とした学問なのか定かではない。
「逃げるアタランテ」は化学でもなく哲学でもないのである。全体が謎に包まれており、見て、読んで、聴いて(フーガの楽譜付きだから)楽しむ、当時のマルチメディアであるという。
"地震” の起こる原因と予知【アリストテレス】「気象論」紹介
知恵
筆者の推測であるが、このような錬金術を学んで愚か者は本物の黄金が作れると誤解して、人生の多大な時間と金銭と労力を費やす。しかし絶対に成功しないから全ては無駄である。なぜなら本物の黄金とは聖書に書いてある通り「知恵」であり、この世の富は空であるからだ。
このようにして愚か者を騙して楽しむための秘密の学問だと私は考える。また「逃げるアタランテ」は聖書の寓意はあまりなくほとんどギリシャ神話である。タイトルが書物全体の主題を表すのなら、アタランテ神話を選んだ理由は何か。
哲学者の黄金「知恵」は女性でもある。「知恵」は追いかけても追いかけても捕まらない。その女をいかにして捕まえるか、その指南書という意味合いであろうか。