哲学

【プラトン】「ゴルギアス」弁論術について〜罵倒される哲学者

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この対話篇は少し長いけれども読みやすい;しかし倫理的・道徳的内容のために、現代の若い読者にはやや退屈な思いをさせるかもしれない。

だが読み終えれば有益なこと請け合いの名著でもあり、休憩しながらでもいいので一度読了してみるとよい。

時と場所

紀元前5世紀ころ、アテナイのある公共施設の広場にて;この対話は始まる。登場するのはソクラテスと同伴のカイレポン。二人は広場でどんな質問にでも答えて見せよう、と豪語する弁論術の大家・ゴルギアスとその二人の弟子に出会う。

カイレポンが仲介役となってゴルギアスとの問い答えが開始される。以後、カイレポンは登場しない。

ゴルギアス

ゴルギアスと一緒にいたのはポロスとカルリクレス;そして師匠のゴルギアスから順番にソクラテスとの対話が進んで行く。”弁論術について”の副題のとおり、議論は弁論術って何?弁論家ってどんなことをする人なの?との問題から入った。

しかしそこは回りくどいソクラテス、話は善だの美だの正義だの、政治家だの医者だの大工だの、そっちへ行ったりこっちへ行ったりする。見事最初の二人を論破し答えに息詰まらせたところ、ついに最後のカルリクレスが出てくる。

カルリクレス

この男は大胆にもソクラテスに向かって軽蔑の言葉を吐き、嘲笑し、挙句にそんなくだらないことばかり話してると裁判にかけられて死刑になるぞ、財産も没収されるよと脅迫までする。信じられるだろうか。

だがソクラテスは動じない。むしろ偽りの論理に同意するくらいなら、喜んで哲学のために死刑にでもなろう、と答える。さらに不幸なのは自分に対して偽りの告訴をする方なのだ、なぜなら彼らには冥府の国ハデスで神の審判が待っているからなのだと。

ヘブライズム

この流れは「ソクラテスの弁明」での裁判に繋がっている。ソクラテスにより弁論術はおべっか使いの群衆に媚へつらう連中が使う術なのだと証明され、ゴルギアスら3人の面目は潰された。また対話の中でソクラテスは受難に向かうキリストか預言者のようにも見える。

実際彼は死刑宣告され、牢屋で毒を飲んで死ぬ。この形式は武士道における切腹やキリスト教の殉教に通ずるものがある。事実大日本帝国期に出版された軍事教育書「切腹哲学」にもソクラテスの記載が認められている。

聖アウグスティヌスは「神の国」の中で、プラトンが”エレミヤ書”を読んでいたと思われる、と指摘している。”エレミヤ書”は旧約聖書の預言者の言葉であるが、エジプトにまで遊学の旅の足を伸ばしたプラトンが、紀元前15世紀来のヘブライズムに無知だったとは思われない節がある。

●参考→和田克徳著【切腹】【切腹哲学】レビュー〜紹介・感想・考察

◯「ソクラテスの弁明」→プラトン【ソクラテスの弁明】〜解説・レビュー・考察・感想

◯「パイドン」→プラトン【パイドン】「魂の不死について」〜毒をあおぐ直前の対話・レビュー・考察・要約

まとめ

この対話篇の見所は以上のような俗社会VS哲学者の図であろう。ボロクソにけなされたり負けずに反論するソクラテスを見ていると、ハラハラするくらいである。プラトンの対話篇の中で、ここまで徹底的に哲学者をあからさまに罵倒している作品はないだろう。

読んでいる方の読者もまた、自分の信念が試されることだろう;カルリクレスの低劣でネガティヴな大衆的な意見に動ずるか、それともますます正義と真実を愛し哲学を追求するか。

その中でソクラテスは自己の意志を黄金にたとえ、カルリクレスを試金石と呼んでいる;その石によって黄金の値打ちが試される、というわけである。もしかすると中世はじめ古来の錬金術師たちが追い求めた”賢者の石”のヒントは、この対話篇にあるのかもしれない。

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◯プラトンまとめ→哲学者【プラトン】対話編〜レビュー・解説まとめ

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