小説

三島由紀夫【午後の曳航】〜少年法とエロティシズムが解剖台の上で結婚

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栄光と曳航

「曳航」という単語だが、辞書で調べないと意味はわからない。ただ、「えいこう」と読むのはわかる。おそらく船乗りの用語だと思われる。この作品では「栄光」が一つの鍵となっており、実際に船員が登場する。ラストでは船員の栄光のためという名目で少年グループによって男は供犠に捧げられるのであるが、三島は「曳航」と「栄光」をかけてこのタイトルにしたのかもしれない。

あらすじ

渋いタイトルからは全く小説のストーリーは予測できないが、かいつまんで言えばこれは少年法によって守られたグループによる犯行と、息子のいる未亡人とたくましい船員の恋の話である。恋というテーマは三島由紀夫の得意な主題であるらしく、今の所読んだ作品全てに男女の色恋沙汰が扱われている。

率直な感想としては少年法が改正される前のサカキバラ事件を思い出したこと、それからバタイユのような暗闇の覗き穴から見たエロティシズムの世界が陰鬱に美しく描かれている、という点だ。

主人公

主人公は誰かということになれば恐らくは未亡人の14歳に満たない息子である登ということになるのであろうけれども、小説の語りの一人称は時々入れ替わって未亡人になり、船員になり、また登になる。船員は世界中を船で旅して回り、思い出と栄光に包まれている。未亡人は30代の美しい女であり、船員に対して色情を催す。やがて二人は結婚するのだが、登は偶然発見した自室の覗き穴から母の寝室を眺め、二人の情事をつぶさに観察するのだった。

登にとって新しい父親ができることはさして問題ではなかった。母親に対する嫉妬とか、男とウマが合わないとか、登の怒りはそんなありきたりな思春期の葛藤なぞではなかった。登は船員である男が海と栄光を捨て陸の存在になり、根を生やし、「父親」という存在になること自体を非難した。そして計18項目の罪科をノートブックに書きしたためて、最終的に「首領」に見せるのである。

「首領」

時々登場するこの「首領」こそは未成年のサド公爵のようなキャラクターで、数名の子分と度々会議を開き教育を施していた。ショッキングなシーンで野良猫を捕獲して解剖する場面があるが、それもサカキバラ事件を連想させた。三島は小動物の解剖シーンをボードレールの「腐肉」という詩にあるような韻律と格式高い文体で自然の美として描写した。

ある日登の懇願で急遽開催された会議の場で、船員の男は「首領」によって処刑宣告される。首領は世界を変える力があるのは14歳未満の自分たちであり、早く決行しなければ刑法によって自由を失うと説いた。同じ要領で船員は少年グループによって解剖されることになるのだが、犯行現場までおびき出された船員に睡眠薬入りのお茶を飲ませたところで小説は終わる。少年たちはあらかじめ数種類の刃物や手足を縛るロープ、睡眠薬などを「首領」の指示で全て用意していた。

読み終わったときあまりの衝撃で感動し、このような物を書ける作家が日本にもいたということがとても嬉しく、誇りに思った。小説全体としてシュルレアリスムのような奇怪なフォルムと美が一体となって、世にも見事な怪しい世界を醸し出している。適度に短いのもちょっとした短編ストーリーっぽくてスタイリッシュだ。今の所、三島由紀夫で私の一番のお気に入りである。

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