今回は元作家志望(というか今も立派なライターだが)だった筆者の「自費出版」の体験を話す。
夢
私は高校の頃から本を出したかった。青年に達すると本格的に芸術への憧れに取り憑かれ、後世に残るような作品を遺した作者たちのようになりたいと願った。
しかしそうやって崇高すぎる主題を追い求めるあまり、本が売れるために必要な「群衆」に対する侮蔑が募っていった。
人間嫌いになり、部屋にこもって本ばかり読むうちこんなことを続けていても無意味だと感じるようになった。
そこで一旦文学と手を切った。しかし本を出したいという夢は心の何処かに眠ったままだった。
小説
私が最初に自費出版を思いたったのは30才の時である。ちょうどJ.Kローリングがハリーポッター第1巻を出して1億部売ったばかりの頃だ。
告白するとその頃私は金に困っており、何とかして一攫千金を狙う方法ばかり考えていたのだ。そこで思いついたのが出版だった。
J.K.ローリングの話を聞いた時、先を越されたと思った。くそ、やりやがった。1億部なら印税はいくらだろうか?そう思って計算までした。
紙に字を書いて出すだけであとは何もしなくてもお金が入ってくる。ちょうど「絶歌」を出した酒鬼薔薇聖斗のように甘ったれた考えだった。
そしてある日熱に浮かされたように100ページちょいの小説を2、3日で書きあげた。
本
その本はドラえもんのパクリのような内容で、五つの部分に分かたれたひとつながりの短編だった。
これは絶対に売れると確信した私は新聞に載っていた文芸社の広告をみて、原稿を送った。すぐにメールで褒めちぎりの返事が来た。
これはすごい本だ、ぜひ出しましょう!!熱烈な担当者のメッセージだった。私は当たり前だという風な高飛車な天才を気取り、乗り気である旨返事を書いた。
契約
今でこそ色々な自費出版の手段や会社はあれど、その頃は素人の本を出す会社は文芸社くらいしかなかった。
電話帳で調べて出版社に電話したりもしたが、どこにも素人の本を出す会社などなかった。
一件だけ個人の印刷会社のおじさんが原稿を読んでくれた。面白いねと言ってもらえたが出版には至らなかった。
おじさんは本を出すのにいかに人件費や広告費がかかるかなど、無理な理由を丁寧に説明してくれたものだ。売れる保証のない本を出せば赤字になるだけなのだ。
またインターネットもさほど普及してない時代ゆえ、人々が得られるデータ・情報も限られていいた。
世間知らずの上に甘い夢まで見ていた私は文芸社と出版契約した。
費用
自費出版の費用の相場は車一台分である。(笑)すなわち契約に記された料金は160万、これをあたかも家を建てるときのように作業進行に合わせて段階的に支払う仕組みになっていた。
率直な感想としてこれを知ったとき、夢を金で汚されたような感じがした。まさか本を出すということにこれほど金がかかるとは!
無謀にも予算が足りず親族に援助を求めたが、親族会議でボロクソになじられた。当然だろう。
普通の人が汗水垂らして160万稼ぐのに、どれほど苦労することか。
それをくだらない保証もない夢のために蕩尽するなどたわけもいいところだ。
私は出版を諦めざるを得なかった。契約はそのまま初回未払いのため履行されなかった。
再度
それから7年後私に金が入った。真面目に稼いで貯めた金だった。その時私は思った。このお金で無念に葬られた夢を実現しようと。
本が売れても売れなくてもいい。このままでは死ねない。夢をもって生まれたからには夢のために金を使おう、そう決めた。
私は新宿の文芸社を訪れた。「リアル鬼ごっこ」その他のヒットでこの会社もだいぶ大きくなっていた。
前の契約で本を出版することが可能かを再度相談した。これまでの経緯も話した。
OKが出てすぐに作業が始まった。原稿は手書きだったが当時のまま大事に保管していた。
手書き原稿を渡すと担当者がデータに起こし、何回かの推敲のやりとりを経て印刷へ回る。
確か作者の添削は3回だったと思う。これだけでも作家気分が味わえ、自分が先生になったような気になる。
昔のようにつっぱらず出版社のアドバイス通りに添削を行い、スムーズに発行へと漕ぎ着いた。
結果
160万払って印刷部数は1000部。100部著者進呈と100部メディア用、50部が見本だったかな、忘れた。つまり販売在庫は750部だ。
この本を出して私が得た印税収入は1500円程だったと思う(泣)。むろん重版などされなかった。
しかし夢がかなった出版当初はやはりウキウキで楽しかった。友達に見せびらかし、自慢したり買ってもらったりした。
文芸社の売りは本を出すと国立国会図書館に必ず保存されること、及び提携書店の書棚に一定期間必ず陳列されることだ。素人にとってこれは大きい。
新聞広告、テレビ広告など高額オプションはいくらでもあって、金をドブに捨てるにはちょうど良い。その案内はたくさん来る。
電子書籍化もでき、これにも金がかかる。全て金金金。芸術はどこへ行ったのか?夢は?
本はアマゾンなどのサイトで販売されいくらか売れたようだが、2年ほどの契約が終了すると在庫処分の通知が来る。
人の血と涙と汗が詰まった本を処分するなどもっての他だ。廃棄だと費用がかかる。また金。著者引き取りなら送料のみ負担で良い。
私の狭い部屋にダンボール箱で300部程自分の新品の本が送られてきた。(笑)
リンク
何年もかけて少しずつ本を知人にあげたりブックオフに売ったりしたが、全然なくならなかった。しまいに全国の図書館にゆうメールで寄贈したが、これも費用がバカにならず飽きてやめた。
最終的に引っ越す時に近所にタダで配って回った。であるから現在この本の新品は私のところに10冊しかない。
しかし文芸社オンラインというサイトで無料公開されているし、中古で売りさばかれている。一応リンクを貼っておく。
●斎貴男 「手 hand」→手〔hand〕
金
このように出版界は良い本を出すとか芸術のためとかの意義を持って存在しているのではない。ただ金もうけ・金勘定の世界である。
しかもネットがこれほど普及した現在となってはこれほど不効率な金儲けはあるまい。
出版界は絶滅するだろう。こんなくだらない、割りに合わないビジネスはないだろう。
それが夢を裏切られた私の出版社への呪いだ。滅びるがいい(笑)。
ブログ
私のやっているこのブログはサーバー・レンタル代とドメインで年間1万円もしない。しかもわずかではあるがお金も稼ぐ。
最初は全然だったが今は月に5000人以上の人が見にきてくれる。たとえちょこっと覗くだけでも、ちょこっと読んでもらえるだけでも何とありがたいことか。
一人でも読者がいる記事は見直し、なるべくもっと良く書き直す。その一人が大事なのである。
日本だけでなく海外からもアクセスが認められる。すごいじゃないか。もちろんスパムもあるけれども。
出版で海外翻訳なんて三島由紀夫レベルくらいまで行かないと不可能だろう?ブログなら瞬時に世界中に発信され、グーグルが自動で翻訳するのだ。
自費出版の印税は3%とかだが(まさに舐めてる)そんくらいの金は毎日ブログで稼げる。
出版会社、死ね死ね死ね!!(笑)