この映画は2016年公開のドラマ、原作は同名の小説を元にしている。アカデミー賞の数々を受賞した文句なしの名作、辛口批評家の私にとってもベスト5かベスト10作品に入れられる。最高の本当に良い映画のひとつに数えられるだろう。
部屋
「部屋」はママと男の子の限られた世界。ここで二人は信じられないような生活を送っている。
小さな空間から一歩も外に出ない冒頭はソリッド・シチュエーション・スリラーを思わせる。しかしこの映画はホラーではない。
ポスターだと甘い感動モノのようだが内容は若干ヘビーで、コミカルながらも人生について考えさせる。
10平方メートルあるかないか、その部屋にはクローゼットやミニキッチン、浴槽、洗面台などの生活用品は一応揃っている。
しかし部屋に射すのは唯一小さな天窓の日の光のみで、二人の健康状態は余り良くない。
にも関わらず男の子のジャックは子供らしい空想力によって、狭い空間を無限に拡大することができていた。
「このハムレット、たとえ胡桃の中に閉じ込められようとも、一国を支配する夢を持つことができるのだ」そんなような言葉を思い出さされた。
誘拐
ここは一体どこなのか、なぜ二人はここで生活しているのか。時たまやってきて食料なんかを配給しにくる男は誰なのか?
やがて実態が暴かれる。母親は17才の時にこの男に誘拐され、庭の納屋に監禁されていたのだ。
生物学的には男の子は犯人の息子だった!
世界
ジャックが4才になった時ママは世界がいかに広いか、「部屋」の外にはいかに多くの出来事が起こっているかを説明した。
ジャックは最初その事実を受け入れず反発した。しかしだんだんと持ち味の想像力を働かせて、その話に耳を傾けるようになった。
ある日ママは息子に高熱が出たふりをさせ、病院に運ぶよう男に言った。手には居所を知らせるメモを持たせた。
男は言うことを聞かず次の日薬を買ってくると言って「部屋」を去った。打ちひしがれたママはまだ諦めず、今度は男の子に死んだふり"play dead"をするように言った(笑)。
ジュータンにぐるぐる巻きにし、ロボットのように固くなれと教えた。この場面はかなり笑えるので必見だ。
死後硬直を演じていれば男がトラックに乗せて死体を運ぶから、最初の車の一時停止の時にジュータンから脱出して助けを呼べと教えた。散々練習をしていると犯人が戻ってきた。
脱出
今回は実に上手くいった!ジャックはトラックの荷台でジュータンから頭を出すと、初めて見る大空が光り輝いている。3回目の一時停止で何とか車から飛び降りた。
犯人は追いかけてきたが男の子は泣き叫び、近所の男性が無事保護した。男は逃げた。
パトカーに乗せられたが今までの生活習慣のため意思疎通が困難であったが、女性警官は見事ジャックの言葉からママが閉じ込められている納屋の場所を割り出した!
再びガッチリと抱き合う二人。涙なしでは観れないだろう。ここまででもすでにかなりの見応えだが、まだこの映画は半分だ。
自由
実社会に戻り自由を手に入れママの母親の家に帰った。広くて綺麗な部屋を与えられ、いろんなモノやオモチャがあった。それなのに「部屋」の外に適応するまでは中々時間がかかった。ママは情緒不安定で自殺まで図ったのだった。
ママが入院している間に男の子は徐々に家庭に溶け込んでいく。決定的だったのはこの家の犬と出会ったことだった。ジャックが外の世界の免疫がつくまで遠ざけていたのだ。
この可愛い犬に会って、男の子は心の底から嬉しそうな顔をした。今まで想像の犬しか知らなかったから。
またこの子の「パワー」である長髪を切る決心をする。髪を切ってママにパワーを分け与え元気になってもらうように。
この男の子役ほど可愛くてかっこいい子供を見たことはない。長髪がメタルっぽくて不健康だが女の子みたいに可愛い。私はその手の変態ではないのだがこの子役だけはマジで可愛いと思った。
ジェイコブ・トレンブレイという名前らしいがデータが一向にない。
別れ
やがてほぼ立ち直り再び(ジャックにとっては何もかも初めてだが)「世界」に向き直る決心をした二人は、警官同伴であの「部屋」へもう一度訪れる。
男の子は馴染みのあるシンクや浴槽、クローゼットなどに別れを告げた。最後に天窓にさよならを言った。
ママもまた息子に促されて「部屋」にグッバイを言った(ように思う)。
まとめ
この映画を鑑賞して思い浮かぶのは幼児期のマトリックス、子宮回帰願望とも言えるものだ。たとえどんなみすぼらしいオブジェでも、その場所に育まれた人は執拗な離れがたい愛着を感ずるのである。
悲惨に他ならない監禁状態であったとしても、ジャックが生まれ育った「部屋」は神の慈愛に充ちた空間なのだ。そしてママもいつも一緒だった。
それは神聖な無垢の王国なのだ、彼が成人しいつの日かこの「部屋」を思い出すことがあったとしても。
付け加えるならこの映画はうつ病・精神不安定・引きこもり状態にある方々にも効験あらかただろう。その人たちが立ち直るか、それができないまでも勇気を、それさえ無理でも一時の慰めを与えてくれる映画だと言うことは疑いない。