【マンディアルグ】「ダイヤモンド」レビュー〜『燠火』収録の傑作短編小説
【あらすじ】処女とダイヤモンドの秘儀
物語の舞台は、リヨン通りの丘の上に建つ由緒ある宝石店。何世紀にもわたり営業を続けてきたこの店に、新たなダイヤモンドが届く。店主モーゼ氏の娘サラが、その鑑定を任されることに。なぜなら、ダイヤの“冷気”と“熱気”を感じ取るには、処女性が不可欠とされていたからだ。
鑑定当日、サラは身を清め、断食を終え、裸身のまま屋上の金庫室へと向かう。ダイヤと同じく“無垢”な状態で臨むのがしきたりだった。二重の金庫を開け、封蝋された皮袋から彼女は、白布に包まれた輝く宝石を取り出す──それは「金星のごとく輝く」石だった。
【神秘の輝き】恐るべき純粋さ
想像を超える大きさと輝き。その光は、純粋さの極限を超えて“恐怖”すら呼び起こす。サラは宝石を台座に据え、拡大鏡で観察を始めるが、次第に姿勢が不安定になり、意識を失ってしまう。
【異界の牢獄】ダイヤの中に囚われて
目を覚ますと、サラはダイヤモンド内部の世界に閉じ込められていた。そこは氷点下の山頂のように寒く、身を縮めた彼女は、太陽光が宝石を照らす瞬間をただ待つしかなかった。
【太陽と爆発】火を呼ぶ光線
やがて、太陽光線が宝石に届く。火花が散り、炎が舞い、まるで彗星のような閃光が内部へ飛び込んだ──そして現れたのは、ライオンのたてがみをもつ裸の男。彼はレオナルド・ダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」を模したポーズで立っていた。
【幻視の交合】獅子頭の男と神の子の受胎
ライオンの頭をもつ男は、サラに語りかける。「この高貴な石の中で、あなたと私の間に、やがて民を導く子が宿る運命にあるのだ」と。そして彼女は運命を受け入れる──処女は失われ、男は力尽き、光は遠ざかり、再び寒気が彼女を襲った。
【現実への帰還】血と痛み、そして沈黙
金庫室の床で目を覚ましたサラは、身体に残された痛みと血痕により、それが夢ではなかったことを知る。着替えを済ませ、昼まで眠った。身体は洗わず、代わりに彼女は“聖なる威厳”を抱くような気がしていた。
【ダイヤの変化】赤い点と“結婚指輪”
その後、鑑定された宝石には異変が──北極星のように清らかだった石の中に、赤い小さな点が現れ、日ごとにそれは膨らんでいった。モーゼ氏は返品を考えるが、サラは「どうかあの石を手放さないで」と涙ながらに懇願。指輪に仕立てられたそれを、彼女は“結婚指輪”と呼ぶ。
【神聖なる受胎】星のごとき命を宿して
サラは知っていた。ダイヤの赤い点こそ、太陽の火とライオンの男との交わりで生まれた命の証であると。彼女は指輪を見つめながら、自らの内に育まれる“光の子”の存在を静かに見守り始めたのだった。
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