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【マンディアルグ】「子羊の血」〜短編集”黒い美術館”より紹介(2)

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フランスの作家アンドレ・ピエール・ド・マンディルグ氏の短編集『黒い美術館』より「子羊の血」を紹介。

*前回からの続き→【マンディアルグ】「子羊の血」〜短編集”黒い美術館”より紹介(1)

部屋

さて最愛のうさぎを殺され夕食に供されたマルスリーヌは、一人部屋へこもると鍵を2つかけて閉じこもった。窓辺に椅子を引き寄せて月明かりをぼーっと眺める。数時間が経った。両親が戸口に来て何か呟いている。

マルスリーヌ、戸を開けてちょうだい。起きてるんでしょう?なあに、うさぎを食って丸太のように眠り込んでるだけさ。たとえ暗殺者が来たって目を覚ますもんか。やがて二人は共寝部屋へ立ち去り、静かになった。

マルスリーヌは丈の短いカラコ上着と膝までしかないシュミーズだけを来て、開いた窓から庭へ降りた。何をしようと思っているのかもよくはわからずに、夜の小道をキャバレー”鹿の角”の方へ辿る。昼は隠れていて夜にだけ活動する生き物たちの気配が感じられる。

キャバレー

耳をつんざく騒音とも言える凄まじい音楽が店から聞こえてくる。めちゃくちゃな酔っ払いの即興の曲である。いかがわしい店の前まで来てマルスリーヌは怖くなる。ここから道を引き返して自室に戻るのは造作もない。そして夜は何事もなく過ぎ去るだろう。

両親は少しやりすぎたことを詫び、娘との心を再び通わせるよう試みるかもしれない。しかし少女はキャバレーのドアを開けて中へ入ったのである。あとはどうともなれだ。

黒人

舞台の上で音楽に合わせて黒人屠殺屋ペトリュスが、ケバケバしい服装で激しく淫らに歌い踊っていた。まだ店内の誰もマルスリーヌの存在に気づいていなかった。やがてペトリュスが持っていた屠殺用ナイフで子羊を殺す身振りをすると、思わず女の子は声を出してしまう。

屠殺屋はマルスリーヌを見つけると舞台から放たれた矢のように彼女をさらい、店の外へ走り去った。途中で立ち止まり自分の目を疑う黒人ペトリュスであったが、こんな幸運を逃す手はないと自分の屠殺小屋へ少女を連れ込んだ。

小屋

貧しく不気味な建物には羊を殺すための施設や、家畜小屋があった。少女は黒人にどうか殺される定めの子羊を見せてくれと頼んだ。ランタンの明かりで照らされた羊小屋の中に、たくさんの動物がひしめいている。さらに驚くべきことに、獣たちの毛皮は色とりどりにペイントされていたのである。

ペトリュスはマルスリーヌの体を弄りながら少女を一匹の羊に馬乗りにさせた。彼女の足は擦れ傷つき、塗料に汚れた。しかも動物の蚤が股間に乗り移り、激しいかゆみに襲われた。ムッとする錯乱させるような麝香と糞の混じった匂いと、ベトベトして痒い性器の感触から思わず小便を漏らした。

これを見た黒人はいきりたち、血だらけの屠殺台に彼女を倒すと犯した。意識が遠くなり再び目覚めると、なぜかペトリュスは後ろ手に縛られており、絞首刑のヒモに首を突っ込もうとしているところだった。

処罰

不可思議なリアリティのない展開。柵によじ登り梁に釣った首吊り縄で黒人は自殺するふりをした。苦しげに足掻くペトリュスのポケットから残忍なナイフが落っこちた。彼は身振り手振りで助けを求めるが、マルスリーヌは黒人が完全にぶら下がれるよう一切の支えを奪い、ナイフを拾うと小屋を去った。

夢遊病者のように夜道を歩く少女。夜明けは近い。片方の腿から尻にかけて真っ黒い血が縞のようにこびりついている。再び”山小屋”に着くと彼女が入るのに選んだのは両親の部屋の窓だった。

うさぎのシチューを貪り食い汗だくになって絡み合って眠っている両親の姿。限りない嫌悪感がこみ上げる。手には屠殺用のナイフがある。耳の中に悪魔の声がしていた「殺せ。消せ。滅ぼせ」と。

まとめ

キリストを殺された使徒たちは、黙示録で全人類を滅ぼす予告をする。前回記事の冒頭で子羊の血がイエス・キリストを思わせることは書いておいた。ねじ伏せられ嘲られ屠殺された無垢が、裏返しになり大量殺戮を行うという、そういうヴィジョンの小説である。

マルスリーヌは処女膜喪失の血を流し、自由を得たあと両親を殺害する。翌朝小間使いの悲鳴が響き渡り、警察が押し寄せる。捜査は簡単に終了する。凶器は屠殺用ナイフであり、黒人は罪の意識で小屋で首を吊って見つかったからだ。

少女はボルドーの叔母の家に預けられるだろう。それまでは港の孤児院で最初の船を待って過ごし、尼僧と孤児たちに好かれて暮らす。子供達は夜彼女の寝床に恐ろしい”血まみれの子羊”の話を聞きに来るのだ。

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