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【ヴァテック】W・ベックフォード作〜ゴシック小説・あらすじ紹介

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「ヴァテック」"Vathek"(または「ヴァセック」)は「オトラントの城」とともにゴシック小説の代表的な作品。正篇と挿話二編に分かれており、カリフのヴァテックの物語である正篇中心に紹介する。

作者について

作者はイギリスの富豪ウィリアム・ベックフォード。澁澤龍彦「異端の肖像」で”バベルの塔の隠遁者”などと称された。音楽の才能があり、モーツァルトが子供の頃彼の家庭教師を勤めた。

諸国語を理解し、晩年は自ら建築した巨大な塔に引きこもって暮らした。相続した遺産を食いつぶしながら蔵書・美術その他の道楽に耽り、領地の周りを4メートル近い壁と鉄柵で囲んで外界を遮断した。

5つの快楽の館

アッバース朝カリフのヴァテックは、強大な権力と恵まれた剛毅さとを兼ね備えた非の打ちどころなき王だった。ただこの世の快楽に目がなく、その力に等しい激しい欲望を持つ点で抜きん出ていた。

宮殿には肉体の5つの感覚を酔わせるための5つの館が設置されていた。視覚を喜ばす館には様々な美術品や珍品・奇品の数々があり、嗅覚には諸外国から集めた貴重な香料、聴覚には心蕩けんばかりの音楽の奏、味覚には贅を尽くした美食の類、そして触覚には選りすぐりの美女が侍っているハーレム、といった具合だった。

魔視

さらに王には魔視があり、ひとたび怒り狂うと右眼が恐ろしく光り輝き、部下はそれに睨まれただけで死んでしまうのだった。このような比類のない王は母親である太后とともに占星術に懲りだした。

星を解読するために天まで届かんばかりの高い塔が建造された。その間天国のムハンマドはヴァテックの傲慢な企てを見ながらもやらせておけ、と言って放っておいた。

不吉な星

するうち星が奇妙な予兆を告げる印を示す。しかして宮殿にある日、誰も直視できないほど凶暴な顔をした異国人が現れる。この不思議な男は邪教徒(ジャウール)であり、異端であるゾロアスターの拝火教徒だった。

男は王の前で身を屈せず怒りを買い、王の魔視に睨まれるが全然平気だった。臣下の者らは驚き恐れた。

謎の文字

邪教徒は色々な神秘の宝物を置いていったが、その中の一つに読めない文字が刻み込まれた剣があった。この文字を解読するために国中の智者が集められたが、誰もこの文字を読むことができなかった。そしてようやく一人の老爺がこれを解読した。それは要約するとこのようなことが書かれていた。

「物みな驚異であり、驚異に満ちた世界に我らは造られた」

イギリスの詩人ウィリアム・ブレイクによれば「知覚の扉が浄められるならば、万物はありのままに、無限に見える」のである。だが文字を解読して喜んだのも束の間、次の日には文字は変形し、不吉なお告げの意味に変わっていた。これを読んだ老爺は王に追い出されてしまった。それでも文字は次々変わっていたが、誰ももはや読むことができなかった。

●ウィリアム・ブレイク→【ウィリアム・ブレイク】まとめ記事〜知覚の扉を開く預言者の詩

子供の生贄

老いた学者を追放してしまったことを後悔していたが、機会あって再び邪教徒に出会うことができた。ジャウールは生贄として50人の子供を地面に現れた裂け目に突き落とせば、地下の火の宮殿にあるソロモンの護符と宝を与えようと提案する。この護符を手に入れればあらゆる精霊を支配することができ絶大な力を得られるのだった。

太后カラティスと一緒になって人民や子供たちを惜しげも無く生贄に捧げ、ヴァテックは地下宮殿の入り口のある古代ペルシャの都・イスタカールへ向かった。旅の途中で絶世の美女を見つけて快楽に耽り、妻にして彼女も一緒に地下宮殿に入ろうということになった。

黒い階段

ピラミッドそばの黒い大理石の石板が張り巡らされた高台へ着くと、ジャウールの声が聞こえ地面が開いた。地下へ向かって漆黒の階段が降っており、ろうそくで両側が照らされていた。一番底では邪教徒が扉の前に立ち、黄金の鍵をチラつかせていた。

若く美しい妻と手をとってヴァテックは階段に飛び降りた。地下宮殿の宝と権力への欲望から、二人は下へ降りるというよりは落下しているような速さで階段を走った。宮殿では予想と異なる不気味な光景が広がっていた。なぜか人々は苦しそうに右手で心臓の位置を押さえ、互いを避けるようにしてうろついているのだった。

燃える水晶

その理由が間も無く理解された。邪教徒はヴァテックを肉体の欲望と快楽で欺き、永遠の罰につなぎとめるためここにおびき寄せたのだった。天国のムハンマドの救いはもはやここまで届かない。

時が至って王が地下宮殿の玉座に座す時、彼の心臓は青白い炎に包まれたクリスタルのように燃え上がった。こうして未来永劫心臓を押さえて苦しまなければならないのだった。

まとめ・感想

衝撃に満ちた作品でありながらあまり人々に知られていない。読めば必ず大きなショックを受ける小説。物の見え方まで変えてしまうかもしれない。古書で買うには高いので図書館で借りる方法がある。

マルキ・ド・サドの影響が感じられる悪の肯定の書、だがその道はドン・ジュアンのように最後は必ず地獄へ落ちるべきことを教えている。悪を行うには、それ相応の犠牲が伴うのである。

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