【アルゴス】百の眼を持つ巨人と現代テクノロジーの啓示──ヘルメスが屠った“観察の力”
1. 百の眼──現代のアルゴスとして
私たちはいま、2020年の世界に生きている。インターネット、Mac、iPhone、そして人工衛星。これらがあれば、ごく普通の人間である私ですら、自宅にいながら全世界の動向を目撃することができる。まるでギリシャ神話に登場する百眼の巨人アルゴスになったかのようだ。
スマートフォンのカメラとSNSがあらゆる地域に浸透し、事件や災害の現場から無数の映像がリアルタイムで発信される。私たちは、投稿者の視点を通じて世界の「今」を見る──それは、誰もがアルゴスの“眼”を宿す時代である。
もしアルゴスがしっくりこないなら、旧約聖書に登場するケルビムの姿を思い浮かべてもいい。彼らの翼にはびっしりと眼が宿り、すべてを見渡していた。なお、神話によればアルゴスは神ヘルメスによって殺され、その眼は孔雀の羽に宿ったという。孔雀はゼウスの妃ヘーラーの象徴である。
2. 山──電源とネットの臍帯
さて、今この瞬間に世界で何が起こっているかを知りたいとき、私はiMacの画面を開く。YouTubeで「Al Jazeera English」や「France 24」を探すだけで、地球の裏側の出来事がリアルタイムで飛び込んでくる。
この奇跡は、インターネット、スマートフォン、そしてドローン技術の融合によって可能になった。だが、この“眼”は無尽蔵ではない。インターネットは電力を必要とする。電気は発電所や蓄電池によって供給され、電線という物理的な媒介がなければ成り立たない。つまり、山奥の大自然にはこの眼は届かない。
電気が途絶えたとき、ネットもまた沈黙する。アルゴスの眼は眠るのである。とはいえ、現代人は世界中に散らばるスマートフォンの数だけ眼を持っている──それはある種の集団意識のようでもある。
3. 耳──“知ること”の代償
地球は大気に包まれ、陸と海に分かれている。陸地には国家があり、かつては飛行機によってそれらが結ばれていた。しかし2020年、COVID-19の流行により、その結び目は断ち切られた。滑走路も航空機も残っているのに、人の身体が移動を許さない。
その一方で、我々はテクノロジーの進化──スティーブ・ジョブズの贈り物──によって、家から一歩も出ずに世界中の出来事を「見て」「聞いて」知ることができるようになった。
だが、この即時性は時に私たちを疲弊させる。知りたくもなかった情報や、心を曇らせるようなニュースも、瞬時に届く。もはや情報とは、恩恵であると同時に恐怖の伝播装置でもあるのだ。
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