【ヨハネの黙示録】講談社学術文庫・小河陽訳を読む|世界の終わりを描いた預言書
中世の幻視文学の極北──
『ヨハネの黙示録』は、神秘体験・宗教的幻視(ヴィジョン)を語るテキストとして、文学史的にも「中世幻視文学」の典型とされます。これはダンテ『神曲』やヒルデガルトの幻視録、ノルウェーの「夢幻行」などと同ジャンルです。「極北」とは、比喩的に「そのジャンルの中でも特に激しく象徴性が高く、壮大で、異様にイマジネーションが突き抜けている作品」という意味。
新約聖書の最後に位置する「ヨハネの黙示録」が、講談社学術文庫からお手頃価格で出版されています。テーマはズバリ“世界の終わり”。とはいえ、今回の記事ではこの重々しい内容を、なるべく肩の力を抜いて読み解いていこうと思います。
創世と終末の対比──預言としての黙示録
旧約の冒頭「創世記」で神が万物を創造し、最後の「黙示録」で世界が破壊される──聖書全体を通じた壮大な構図がここにあります。人類滅亡どころか、宇宙の終焉さえ描かれる黙示録は、数ある外典・偽典の中から最終的に正典として組み込まれました。
著者ヨハネは、流刑中のパトモス島でこの幻を見たとされています。これは単なるファンタジーではなく、いずれ現実に起こるであろう未来の啓示として描かれている──これが黙示録のスタンスです。
壊滅的な天変地異の連続
本文には、想像を絶する災厄が次々と記されています。例を挙げると:
- 巨大な星の落下
- 燃え盛る山の落下
- 血に染まる海と川
- 全人類に降りかかる疫病
- 地を揺るがす巨大地震
これらは現代風に言えば核戦争や隕石衝突レベルの災害。しかもその発生日時は「誰にも分からない」、神(父)のみが知るとされます。
さらには天界まで揺さぶられ、星が落ち、太陽は暗くなるという。これは天動説的な発想の表現かもしれませんが、今の感覚でいうなら、地球の軸がずれ、公転軌道が崩れる──そんな終末的なビジョンかもしれません。
反キリストの登場──獣と大淫婦
災厄のさなか、現れるのが「反キリスト」。別名:獣、大淫婦、荒らす者、サタン、赤い竜…など多彩です。
中でも「獣」は、旧約の『ダニエル書』でも語られた存在で、致命傷を負っても蘇り、魔術的な力で人々を惑わし、像を作らせて崇拝させます。拝まない者は皆殺しにされます。
さらに、「大淫婦」は諸国の水の上に座し、獣にまたがって登場。女の額には以下の文字が記されています:
“MYSTERY, BABYLON THE GREAT”
“THE MOTHER OF PROSTITUTES AND OF THE ABOMINATION OF THE EARTH”
(神秘、大いなるバビロン、地上の汚れた者と娼婦たちの母)
獣の像には目と口があり、話すことさえできる。そして崇拝した人々には「獣の刻印」が押されます。その数字──666──はあまりに有名です。
カバラ的数字の意味
ヘブライ語では文字と数字が対応しており、「カバラ」では神秘的な数の組み合わせが重要視されます。黙示録に登場する「666」「12」「144000」「7」などの数字にも、そうした象徴的意味が込められていると考えられています。
詳しいことは専門家に譲りますが、こうした数字の背後に広がる神秘思想に興味のある方は、「カバラ数秘術」などの文献に当たってみると面白いでしょう。
文庫で黙示録を読む意味
こうした壮絶なヴィジョンを描いた「ヨハネの黙示録」は、恐怖と希望がないまぜになった終末の書。講談社学術文庫の小河陽訳は、原典のニュアンスを大切にしながら、平易な文体で読みやすく仕上げられています。
いわば「世界終末シミュレーション」の原点を味わえる一冊。宗教や神話に関心がある方はもちろん、黙示録的イメージに惹かれるすべての読者におすすめです。
コメント