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【エドガー・アラン・ポー】「楕円形の肖像」〜女の命を吸う画家の筆

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創元推理文庫”ポー小説全集”第3巻収録、陰鬱なトーンの珠玉の短編「楕円形の肖像」を紹介。

あらすじ

イタリアはアペニン山、主人公は戦いから逃れてきた騎士であろうか。深手傷を負った体を休めるため、従者に連れられて止むなく立ち寄ったのは、ラドクリフ夫人のゴシック小説「ユードルフォーの怪奇」もかくやの不気味な城。

主人公は人のいない古城の外れにある、小塔の1室に身を落ち着ける;他の広々とした豪華な部屋に比べれば狭く質素な室には、タペストリーの掛けられた壁と紋章入りの戦利品、そして見事な金色の額縁に収められた多くの絵画が飾られていた。

眠られぬ主人公は窓の鎧戸をぴったりと閉じ、ベッドの燭台に蝋燭を灯して、それらの絵をじっくり見てやろうという気になった。さらに机の上に絵画のひとつひとつを紹介・批評した内容の本まである。

女の肖像

いつまでもいつまでも、主人公は読み続けた。するうち夜は更け真夜中が訪れた。つと手を伸ばし燭台の灯の向きを変えようとした時、部屋の片隅の暗がりにぼうっと若い乙女の顔が浮かび上がった。その可憐さ、美しさはもとより、なんでそこに女の顔があるのか、理性の理解を得ようと主人公は目をつむる。

それは楕円形の額縁に飾られた女の肖像画だった。気持ちを鎮めてもう一度その絵を見た;未成熟な若い女の清廉な魅惑がその微笑に湛えられ、主人公はその虜となり1時間も見つめ続けた。だが芸術作品としての素晴らしさよりも目を釘付けにしたのは、肖像画の持つ”生きているかのような表情”であった。

主人公は夢中になって本のページをくくり、肖像画の由来の箇所を探した。そこには画家に嫁いだ献身的な若い妻の物語が書かれていた。13歳で結婚し26歳で病気で死んだ、ポーの美しい妻ヴァージニアを連想させる、物悲しくも不思議な文章が。

画家の妻

画家はある日妻に向かって肖像画を描かせてくれと頼んだ。そしておそらく主人公が泊まっているこの小塔の1室にモデルと閉じこもった。妻の体と画家のカンバスのうえに、天井から青白い光が常に降り注いでいた;

画家はほとんど狂気のようになり仕事に没頭し、妻の顔が次第にやつれて行っていることに気付かなかった。だが妻の生気が衰えるほどに、絵の魅惑的な輝きは増すのだった。ついに最後の仕上げの部分、口元に一筆・目に一色を残すのみとなった。

画家が最後の入魂の腕をふるって絵画に息を吹き込むと、思わず大芸術家が完成時にあげるような叫びを上げていた;「これはまるで生き身そのままだ!」そして妻の方を見やると、彼女はついに息絶えていたのだ。

      楕円形の額に収められた若い美女の肖像画の話は、こういうものだった。

まとめ

時間は人の生命を奪う。消耗品に等しい男の命など枯葉1枚の重さだとしても、”女の美しさ”の儚さにいたっては。

そう、美女の美しさは衰える。オランウータンの手に握られたカミソリを、綺麗な顔に2、3回振り回すだけで「美」はただの肉の塊になる。

激しい恋も虫が喰い潰し、穴だらけにしてしまう。そして別れ・死・滅びが、楽しい生命や若さに取って代わる。古今東西より芸術家たちは言葉や絵の力で、「美」を永遠化しようと試みてきた。

現代の映写技術がいかに優れており、時間が奪い去った映像を電子機器で再生することができるとしても、機械が保存した「美」は空しい。

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