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【古代音楽論集】プトレマイオス「ハルモニア論」〜西洋古典叢書より紹介

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西洋古典叢書

京都大学出版会が出している西洋古典叢書シリーズにある「古代音楽論集」には、アリストクセノスの「ハルモニア原論」およびプトレマイオスの「ハルモニア論」が収録されている。価格は新品で3600円。

一般の人が読んでもさっぱり面白くないし理解できないので、これをお買い得と呼ぶかどうかはともかく日本語訳はこれしかないのである。そもそもプトレマイオス目当てで買った本なので前座は流し読みに留めた:というのは「ハルモニア論」でプトレマイオスはピュタゴラス派とアリストクセノス派を批判しているためである。

解説・註釈もこの偉大な天文学者を小馬鹿にしているところがあり、読んでいて腹が立ったのでこちらもスルー。付録の小冊子の方がためになって面白かった。小冊子にはこの本を簡単にわかりやすく解説したエリザベエト音楽大学教授、片桐功先生のエッセーぽい小評論が付いている。

西洋古典ミニ辞典には「古代の紙」というエッセーがあり、パピルスと羊皮紙の歴史や羊皮紙の再利用のことが書かれていて興味深い。高価な羊皮紙に書かれたアルキメデスの「方法」を消して、その上にキリスト教の祈祷書が書かれていたりと、時代を感じさせる記事が読める。

アリストクセノス

アリストクセノスからアリストテレスのプラトンの講義に対する批判の箇所を抜粋:つまりプラトンが講義で「善について」のタイトルで聴衆を集めたところ、”善”に惹かれて来た人々は幾何学や天文学の話を聞かされて失望した。

アリストテレスはこれをみて自分は講義の前には必ずどんな内容を話すかをまず語る、というスタイルに決めたのだという。前座のアリストクセノスの本については以上。

「ハルモニア論」

プトレマイオスの「ハルモニア論」内容・目次はwikipediaを見ればわかるので特に書かない。そもそもピュタゴラス派の唱えた”天体音楽”とは何か。前2派を共に批判しつつもプトレマイオスは前半ハルモニアすなわち調和を数学的な比例に基づいて語る。

幾何学大好きプトレマイオスらしい計算結果や図形による証明が展開するところは天文学の大著『アルマゲスト』を偲ばせる;次いで後半プトレマイオスの理論は飛躍し、それぞれの階調を人間の魂と天体の運行軌道に割り当て、”天体音楽”とする。

本は中途で欠損しているが、この考え方は長年微分積分法の計算で苦労したヨハネス・ケプラーの「宇宙の調和」へと引き継がれていく。。アイザック・ニュートンさえ錬金術の本を書いているくらいだから、近代科学発展の先達の心にも、古代の夢は深く根付いていたのだろう。

最後に

最近思うのだが、珍しい本を日本語訳で読もうとすると、出ていないかあるいは出ていても高いお金を取られる。欧米で気軽に読める本が日本ではそうはいかない:日本とはそういう国なのである。

だからkindleはもっと安いけれどアメリカのペーパーバックだと、珍しくて面白い本がアマゾンで簡単に安く手に入る。たとえば「ヘルメス文書」は古書で3万円するが洋書だと1000円で買える。最近やっと邦訳された「ポリフィルス狂恋夢」は7000円以上だがペーパーバックだとこちらも1000円。

岩波オンデマンドでナグ・ハマディ文書を読むと何万円もするが洋書だと3000円;ちょっと辞書を引く手間を惜しむだけでこんなに経済的である。

●関連→【TETRABIBLOS】「テトラビブロス」プトレマイオスの哲学的占星術書〜紹介と感想

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