“Nutrix ejus terra est.”
地球──母なる大地
女神のような女性が立つ絵がある。彼女の体は丸く膨らみ、地球そのものとなり、その乳房から赤子が乳を吸っている。
地表には海と陸が描かれ、まるでグーグル・アースのようだ。ただし、その陸地は完全な形ではない。
当時すでに、地球が丸いことは知られていた。古代ギリシャの学問はアラビアを経てヨーロッパに伝わっており、アリストテレスの時代から「地球は球体である」とされていたのである。
天動説の大家であり、占星術師でもあったアレクサンドリアのプトレマイオスは『アルマゲスト』の序文でそれを明言している。また『地理学』では世界を初めて座標で表現し、彼の地図は中世ヨーロッパで最も信頼された。
とはいえ、地図はまだ全世界を網羅してはいなかった。だから、この女神の地球もまた、未完成なのだろう。
宇宙をつくるもの──元素
古代の人々は、宇宙が四つの元素──土・水・空気・火──から成り立つと考えていた。
プラトンは『ティマイオス』で、これら四元素が数学的な調和をもって結びつき、神により宇宙が形作られたと説いている。
地球にはまず土と水がある。しかしもし土が平坦であったなら、陸地は形成されず、ただの浅い海のようなものになっただろう。
高低差が生まれたことで、乾いた陸と海とが分かれ、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、日本──さまざまな国と人々の世界が生まれた。
海と陸の境界線は、波によって絶えず揺さぶられている。けれど高みから見れば、世界地図のような明瞭な線が、静かに現れる。
【プラトン】「ティマイオス」再読・感想〜プラトン全集(岩波書店)より
母なる大地──食物の起源
人間もまた、動物と同じく食物なしには生きられない。そして我々の身体も、土・水・空気・火──四つの元素で成り立っている。
肉体を形成する主な元素は土であり、食べ物もまた土に由来する。地上の作物、海の恵み、それらすべては「大地」から生じる。
この大地が、生けるものすべての母である。
命は大地から生まれ、養われ、死ねば再び土へ還る。これが「母なる大地」という言葉の本当の意味だ。
──母から生まれ、母に養われ、母の胎へと帰る。
前回紹介した「風」のエンブレムに続き、今回は「土と水」の物語。作者の意図は定かではないが、四元素の連関を思わせる展開となっている。
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