【ギリシャ悲劇】エウリピデス「ヒッポリュトス」”パイドラーの恋”〜岩波文庫レビュー・感想

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岩波文庫・松平千秋訳「ヒッポリュトス」のレビュー・感想 😉 

あらすじ

ギリシャ3大悲劇詩人エウリーピデースのこの作品には”パイドラーの恋”なる副題が付いている。プラトン「法律」(上)の註釈にこの悲劇の簡単な筋が載っていて一発で興味を持った。

パイドラーは神話の英雄テーセウスの若い妃だがアマゾン族の前妃が死んだため後妻である。テーセウスにはアマゾン族の母親から生まれた息子、ヒッポリュトスがいた。つまりパイドラーは彼の継母に当たる。

パイドラーは継子が貞潔の女神アルテミスを崇めながら森で日々狩をする姿を見て恋に落ちてしまう。誰にも打ち明けられない恋の病に死にかけていくパイドラー。その姿を見かねて幼い時から彼女の面倒を見ている乳母の婆やが、根掘り葉掘り問いただしついに原因を知る。

お節介婆やがヒッポリュトスに継母が恋していることを直接伝えてしまい、恥辱に追われたパイドラーは婚礼の紐で首をつって自殺する。そして手に継子ヒッポリュトスが自分を犯そうとしたと嘘を記した書板を持ち、面目を保とうとした。

ポセイドン

テーセウスはお参りに行っていて不在だった。やがて帰って来ると妃が首を吊って死んでおり手には秘密の書板を持っている。息子ヒッポリュトスを呼び出し不倫を問い詰めたが、無実のヒッポリュトスは女神アルテミスに誓って父の妃を犯そうとなどしていないと主張。

だがそれがますます父の怒りを招くこととなり、海神ポセイドンに息子の死を祈願したうえ市から追放した。泣きながら馬を繋いだ車で街道を走っていると、地の底からゼウスの雷鳴のような音が響き出し、海から山のように大きな津波が襲ってきた。

これだけでも命がないと思われたがさらに波の泡の中から巨大な牡牛のような怪獣が飛び出した。海神ポセイドンが送り込んだのであろうか。ヒッポリュトスの車の馬たちは暴れ狂い、主人を引きずり落としたまま走り続けた。ヒッポリュトスの頭は岩で砕け致命傷を負った。

アルテミス

共の若い者らが瀕死のヒッポリュトスを担ぎ込んで来てテーセウスに見せた。父はざまあみろと笑っていたが、ついに”機械仕掛けの神”(デウス・エクス・マキナーと呼ばれるギリシャ悲劇専門用語)純潔と狩の女神アルテミスが現れ、息子のために真実を弁明してやる。

真実を知ったテーセウスは胸をえぐる後悔に苛まれたが、もう遅い。市は今後ヒッポリュトスのアルテミス崇拝を讃え、彼を偲んで嫁入り前の処女や乙女たちは髪を切って祭壇に供えるよう定めた。

アフロディーテー

実はこの3名、テーセウス、パイドラー、ヒッポリュトスはある力あり恐るべき女神の怨恨を買って災いにあったのだ。その女神とは愛欲のアフロディーテー、別名”キュプリス”様である。アフロディーテーの息子は目隠しをした翼のある小弓を持った子供、クピドーすなわちエロース。

市の広場の前にはアフロディーテーとアルテミスの女神像があり、ヒッポリュトスは純潔の女神だけを崇拝し官能を司るアフロディーテーをないがしろにしていた。怒った女神はパイドラー、ヒッポリュトス、そしてテーセウスの心をかき乱し、災いを呼んだのだ。

感想

愛欲のアフロディーテー、そして盲目のクピドーの矢の力と鋭さを知る人は幸福者だ。恋の恐ろしさ、巨大なエネルギー、命を奪う快楽、あの毒。古代ギリシャ人は人間の、いや地上のあらゆる生き物が持っている愛の情念に神話という形で名を与えた。

ロミオとジュリエット、池永チャールズ・トーマス、トロイ戦争と滅亡を引き起こした女ヘレン等、他にも名はたくさん挙げられる。エロースの神に捧げられたあれらの犠牲の獣たちは。”ストーカー規制法”がある今の日本、恋の恐ろしい力は避けて通るのが望ましい。

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