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三島由紀夫【潮騒】2017年最新レビュー・あらすじと感想

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舞台

三重県沖伊勢の海に浮かぶ小さな島、歌島。今は神島と呼ばれ八代神社を祀ることで知られる観光名所でもある。

この小説が書かれたのは1954年、わずか戦後9年しか経過していないにもかかわらず若者同士の純粋な恋愛が自由に描かれている。もちろんエロティックな表現・場面もある。しかし古さを全く感じさせない面白さ・爽やかさである。そこは改めて三島の小説家としての技量に感心させられることだろう。

題名

筆者は童貞だった高校の頃「新潮文庫の百冊」とかいう書店のイベントでこの本を見かけたことがある。その時に読んだのかもしれないが記憶には全然残っていないから、多分読んでいないのだろう。40代のおっさんにしてこの青春小説(と言って良いと思う)を読み、歌島という閉ざされた自然の中で繰り広げられる愛の物語に心を打たれた次第である。

潮騒(しおさい)は色々な場面で使われる名詞であろうけれど、小説のタイトルとしてはロマンチックな波のうねりだけでなく、激しく荒れ狂う波の音も表しているように思われる。ちなみに文庫版で150ページ程のこの作品は読み始めるとやめられないタイプで、2日で読み終わった。登場人物らの会話は何弁なのかわからないけれども親しみやすい方言で気持ち良く展開されている。

あらすじ

一言で言えば愚直な青年の新治は漁師の仕事をする海の男である。というかこの島は灯台長や神社の神官を除けば男は皆海の男で、女は海女(あま)である。「海女ちゃん」などというNHKドラマがあったが、彼女たちの生き生きした生活もリアルに描かれていて面白い。

ある時新治は砂浜で見慣れない少女を見かける。初江である。初江は島で恐れられる頑固者の照爺の娘で、奥方を亡くした照爺が淋しくて奉公先から呼び寄せたのだった。という訳でこの家では花婿募集中だった。初江はえらい別嬪の処女だった。愚直な青年は自分が恋しているということも理解できないまま、八代神社に向かってお願いするのだった。「どうかいつか初江のような気立ての良い嫁さんがもらえますように」と。

そんな二人同士は最終的に婚約するのだが、二人の結合を実現したのは他でもないこの歌島を取り囲む自然であり、神なのだった。ラインもメールもない。映画館もない。本屋もない。そんな島で二人の愛は(ちょっと恥ずかしい表現だが)育まれ、成就する。

キス

最初の二人の接点は全くの偶然だった。たまたま散歩に出た新治はとある廃墟で泣いている初江に出くわす。話を聞くと彼女は島の礼儀作法を習う会合に行く途中道に迷ってしまったのだった。青年は偶然に感謝しながらも親切に初江を送り届けた。だが恋愛の進め方など全くもってわからない新治は次会う約束もしなかった。青年の心に何かをやり残した感だけが残った。

その後日、浜で作業をしている初江を見かけ一行を手伝うために新治は手を貸した。その時に青年はもらったばかりの給料袋を落っことしてしまった。家に帰って母親に袋を渡そうとしてそれがないことに気付き、慌てて浜へ戻った。入れ替わりに初江が袋を届けに新治の家に来た。初江は必死に探しているに違いない新治のいる浜へと向かった。

ここで二人は最初のキスをするのだが、それは意図したことというよりは自然の力がそうさせたといった感じだった。抗えない引力が二人の唇を重ね合わさせたのだ。このあと新治は次会う約束をするのを忘れなかった。

抱擁

次の逢引では二人の関係が急展開する。嵐で漁が休みとなり初めて会った廃墟で新治は初江を待っていた。だがずぶ濡れになった服を焚き火で乾かしているうちに眠ってしまう。

ふと気がつくとうっすらとした人影が火の周りに立っているのが見えた。新治は目を疑った。全裸の初江がそこにいた。彼女も濡れた衣服を乾かしていたのだ。初江の身体のあまりの美しさに心を奪われ、寝たふりをしていたが彼女は気付いた。少しばかり押し問答ののち、二人は裸で抱き合った。が結合はしなかった。女の理性が止めたのである。二人はここで互いに一緒になる約束をする。

山道を仲良く下ってくるカップルを見て嫉妬した女が青年部長の安夫にチクるが、島に流された悪意ある噂にせよ、安夫の新治への敵愾心にせよ、二人の真っ直ぐで純粋な愛は最後に勝利するのだった。当初金のある青年部長を婿にもらうと言っていた頑固者の照爺も、貧乏だが男気で勝る新治を初代と一緒にすることを決めた。というのは安夫と新治を一緒の船に乗せて1ヶ月半も遠出させ、どちらが見所のある男か気心知れた船長に判断させたのである。結果安夫が腑抜けで新治は実に良い婿になるという答えになり、初江と新治は公然と結ばれる運びとなった。

ラスト

物語は許嫁同士が八代神社に魚を捧げに赴き、神に感謝の祈りをするところで終わる。この小説では一人の青年が無垢の美しい処女をゲットするまでが描かれている。この青年の美点はまず何も考えないこと、愚直でありケチ臭い駆け引きを知らない男であること、仕事を真面目にすること、気力に溢れていること、人々から好かれていることなどが挙げられる。なんでこんなヤツが、と読者は思うかも知れない。しかし三島の理想とする男、つまり「葉隠」に書かれているような武士的ダンディーとはこのようなものなのかもしれない。

◯「葉隠」についてはこちら→【葉隠入門】三島由紀夫による「葉隠」の解説書を紹介

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