【ウィリアム・ブレイク】「天国と地獄の結婚」原文解読の試み(1)

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イギリスを代表する詩人・画家ウィリアム・ブレイクの本は、予言の書とも呼ばれるように意味不明で難解である。しかし文章の不明瞭を鮮やかで個性的なイラストが助けている。

読者は深い意味なんか考えずに、感じるままを直観すればよい。このシリーズは1回につき2000文字程度の記事で全4回、原文を読みながら翻訳作業も行うとともに独自解釈を進める。

全体概要

「天国と地獄の結婚」という詩の題名は、主題を表しているとともに錬金術的。天国と地獄は結婚する、結合・融合の化学反応を起こし得るということ。ミルトンの「失楽園」にもあるように、元来は深淵によって隔離されているはずの二つの世界が如何にして一緒に結びつくのか。

善と悪・光と闇という相反する2元、それぞれに天国と地獄が対応する。この詩は悪の肯定の書であり、欲望と自由への賛美である。地獄は天国になり、天国は地獄になる。魂が落ちるのはどっちでもかまわない、同じことなのだから。

プレート2:リントラ

プレート1は表紙であるため詩は2枚目から始まる。リントラはブレイクが創造した独自の神話だろう。欲望に飢え渇き、悪に憤り深淵で怒り狂う。吠え、暴れる。欲望は激しいが満たすことができない。

キリストは教えているが「求めよ、そうすれば与えられる。叩け、そうすれば開けてもらえる。全て求める者は与えられ、叩く者は開けてもらえるからである」神に反逆した者に救いなどあるわけがない。

実現不可能な欲望を抱いたリントラは、完全なる満足を荒野の中に求めるがどこにも見出せない。だがやがて荊に花が咲き、死人の骨の上に赤々とした恵みの土が生まれ出でる。

プレート3:イザヤ書

プレート3では旧約イザヤ書34章および35章について言及があり、その部分を引いて読むと次のような記述があった。「主の剣は天において血に満ち浸され、それは裁きのためにエドムとその呪われた人々の上に振り下ろされる」

あらゆる相反物は互いに切り離すことができず、正反対な物同士は進歩に必要である。善は天国、悪は地獄である。一方を一方から切り離すことは不可能であり、善とは理性に従う受動性であり悪とは活力(エネルギー)から迸る能動性に他ならない。

プレート4:悪魔の声

人は肉体と魂を持つという嘘を教えたのは聖書とその正典である。人はこれらの分かたれた本質を有するのではない。悪と呼ばれる活力は肉体から、善と呼ばれる理性は魂からのみ来ると信じられてきた。そして神は人の活力のために永劫に渡って人を苦しめるであろうと。

だが実は人は肉体を持っていない。なぜなら肉体とは5つの感覚によって認知される、魂の部分でしかないからだ。活力は唯一の生命であり、理性は活力の外郭である。活力は無限の歓喜である。このようにしてブレイクは肉体を源と発する欲望をエネルギーであるとし、永遠の生命と同一視する。

プレート5〜6:欲望の影

欲望を制御する人がいるが、それはその人の欲望が制御されるほどに弱いからにすぎない。本物の欲望は無限の力を有しているから、制御はできない。制御された欲望は次第に受動的になっていき、しまいには単なる欲望の影になってしまう。

人は自己が持っている本当の欲望の声に耳を傾けるべきである。それから耳を逸らし続ける限り、本物の自分にはなれない。本物の自分になるということは純粋になるということでもある。この話はミルトン「失楽園」にも書かれている通り。

すなわちサタンは己の欲望に忠実に従い地獄に落とされた。サタンは欲望を果たせなかったのみならず地獄で未来永劫苦しむ羽目になった。しかし悪魔の計略とは深淵から盗んだものを利用して、地獄に自由の名において天国を造るということだった。

「ヨブ記」においては、ヨブは財産や地位や家族全てに恵まれた祝福された生を送っていた。しかしサタンが天の神の前で言った「あなたの愛するヨブは幸せな生活に恵まれているからこそあなたを礼拝しているが、私が行って彼の財産・家族・健康全てを打ち壊せばきっと神であるあなたを呪うに違いありません」神は答えた「ヨブはお前の支配下にある。好きにせよ。だが魂までは傷つけるな」

サタンがそうするとヨブは家財・家族一切を瞬く間に失い、身体中吹き出物だらけになり灰をかぶって荒野に座った。3人の友が見舞いに訪れ、7日7晩彼を囲んで沈黙を守った。最後にヨブは口を開いて神を呪った。

それから信仰とはどういうものかという長い問答がヨブとの間で交わされ、最後にやっと運命を受け入れたヨブは主に元の幸せに戻してもらえる。ミルトン「失楽園」では雷撃でサタンを地獄に落とした救世主が「ヨブ記」ではサタンと呼ばれている。

キリストは死後ヤハヴェとなったが、この神は他でもない燃える火の中に住まう者なのである。

●ミルトン「失楽園」はこちら→ジョン・ミルトン【失楽園】レビュー〜サタンの失墜と人間が楽園に戻るまで(1)

ジョン・ミルトン【失楽園】レビュー〜サタンの失墜と人間が楽園に戻るまで(2)

プレート6〜7:記憶すべき寓話

私は地獄の火の間を自らの才能に酔いながら歓喜して歩いていた。地獄の歓びは天使たちからすれば苦痛と狂気としか見えないだろうが。私はそこで「地獄の箴言」なるものをいくらか集めた。地獄の知恵はどんな建築や織物の薀蓄にも勝る。

家に帰ると5つの感覚の深淵を現在の上に睨む急な崖に、ある力ある悪魔が現れて腐食性の火でもって以下のような文を書いた。「5つの感覚によって閉じ込められていながら、どのようにして君は知ることができようか。空飛ぶ全ての鳥たちが無限の歓喜の世界であることを」

*次の記事はこちら→【ウィリアム・ブレイク】「天国と地獄の結婚」原文解読の試み(2)

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