【竹取物語】岩波文庫版・レビュー〜誰もが知る「かぐや姫」のお話

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概要

「かぐや姫」の昔話は日本人ならば誰しも子供の頃に聞いたことがあるだろう。『竹取物語』がそれだ。ある漢文の教科書に言葉はまず話され、聞かれるのであって、文字というものは後から付け加えられるのだ、と書いてある。同じように私たちは文字を覚える前に言葉を聞き、話すことを覚える。「かぐや姫」の名前は、そんな昔の私たちの記憶に焼きつくお話なのである。

『竹取物語』は古典日本文学史では平安時代初期の作り物語(つまりフィクション)に位置する。歌でもなく、随筆でもない、いわば一種の短編小説的な作品である。しかしまともに読むには古語辞典を駆使しなければならない。幸い岩波文庫版は註釈が非常に親切で、古語辞典を引くのも、文章に悩むのも最小限で済むように工夫されている。古文超初心者の私も何とか全部読むことができた。

解説

薄い本なので、一応本文のみか註釈、補注、解説全て目を通した。そうするうち子供の頃の記憶が蘇ると共に、「こんな話だったっけか」と不思議な気持ちにもなった。そして何より日本の言葉というものの美しさ。これは古典をじっくり味わわなければ決して分からないものである。

私はラテン語聖書とかフランス語の小説とか英語の詩を解読するのと同じ気持ちでもって、この平安時代の作り物語を解読しようと頑張った。そして「かぐや姫」の物語の持つ絶大な日本的美しさを再発見した。なるほどこの物語が一千年もの間人々に愛されてきたのも分かる気がした。

あらすじ

あらすじは皆さんも知っているようで案外知らないと思うので、やや詳しく述べたい。竹取の翁は竹を取って貧しいながら生計を立てていた。ある時光り輝く一つの竹を見た。その中には三寸(約10センチ足らず)ばかりの”美しきこと限りなし”な女の子がいた。

翁は嫗に子を預け育てた。この世のものならぬ子なれば、成長も早く、すぐと13、4才ばかりの背丈になった。髪を整える年頃の儀式では、近所の人々が招待されたためにかぐや姫の美しさは大評判となった。

試練

6人の求婚者が残った。かぐや姫は無理難題を6人に課して、6人はそれぞれ命を危険にさらした。しかし望みの品は到底手に入らなかった。最後に帝が噂を聞いてかぐや姫をたてまつろうとしたが、姫は宮仕えするなら死ぬべしと言う。やむなく帝と姫は歌をやり取りするだけで日々を過ごしていた。

昇天

やがてかぐや姫は月に帰る日が迫った。この女の子は月の住人で、ちょっとばかりの間下界に送られたと言うにすぎない。なので故郷の王様と妃様が空飛ぶ車で迎えに来たなら帰らねばならない。月を見るたびに嘆く父娘。たとえ腹より生まれた子でないとしても、翁はすっかりかぐや姫に心を奪われていた。

帝にその旨を伝え、同じくかぐや姫に恋心の虜となっていた帝は2千人の軍団を連れて守備した。しかし所詮下界の人間、月の住人が訪れると力なく萎れた。姫は翁に脱いだ衣を形見に残し、手紙を預け、月を見るたび私を思い出すように諭す。帝には不死の薬のかけらの入った壺と歌を一句残し、別れを告げる。

天の羽衣

有名な”天の羽衣”を着ると、姫は下界で起こった一切の記憶と一緒に、死すべき人間の心を失う。親しい人に別れを告げ、天の羽衣を着る。光り輝くかぐや姫は空飛ぶ車で月へ帰り、従者たちが付き従い天に登る。

残された人々

『竹取物語』は「かぐや姫の昇天」のあとに締めが付いている。私はてっきり昔話風の閉じ方をするエピローグかなと思っていた。しかし「ふじの山」(むすび)と題されたこの短い一節は、あまりに高度な詩情(こんな輸入物の言葉では言い足りないが)により全身が震えた。

その感動は我々の血に流れる赤血球、ヘモグロビンの細胞一個一個から発せられる愛である、とでも言おうか?翁は絶望して悲しみ暮らし、帝は姫から不死の薬をもらっても「姫を見ることができぬのに、何のために不死とならん」と家来を”天に最も近い山”である富士山に使わす。

その峰に登り家来はかぐや姫からもらった歌一句と、不死の壺入りの薬とを燃やす。その煙は世代に渡り立ち昇っているのだ、として話は終わる。この頃は富士山は火山活動中だったようだ。また名前を富士と呼ぶのはたくさんの強者(士)をここに使わしたからと、また不死の薬を燃やしたからだと言う。

感想

子供の頃には多分6人の求婚者の物語は省略して聞かせられていたのだと思う。なぜなら全く記憶にないからだ。この辺りは別々の挿入話として楽しめるくらい面白い。そして何と言っても昇天の下りは長いし涙を誘い、いかにも平安時代らしいあはれさを感じさせる。

絶大に美しいかぐや姫に、この世の人間は手を触れることはできない。ただかろうじてその美しさを垣間見、記憶に止めるのみ。その美しさを見てしまったら、帝は宮のどんな女にも嫌気がさし、遊び楽しむのもやめ、ひたすら姫の面影を想う。

この平安時代の自然を愛する心、”月”という手の届かないものに対する限りない愛と憧れが、廃れることのない夢となって結実した、そんな物語。

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