道元と『普勧坐禅儀』とは何か?只管打坐の思想と坐禅の実践をわかりやすく解説

哲学

道元(1200–1253)は日本曹洞宗の開祖であり、中国宋から帰国後に坐禅(禅の座法)の普及に努めた禅僧である。彼が1227年に著した『普勧坐禅儀』は文字通り「万人に坐禅を勧める書」であり、坐禅を仏道への正門(正しい入り口)と位置づけ、その実践を強調したものであるkotobank.jpja.wikipedia.org。本書は上座林院(曹洞宗の寺院)や後の永平寺などでテキストとされ、のちの曹洞宗の根本教典の一つとされた。

道元と『普勧坐禅儀』

『普勧坐禅儀』は道元が宋から帰国後(嘉禄3年/安貞元年、1227年)に著した仏教書で、当時日本に広まっていた坐禅規則に不満を持った道元が、自らの坐禅観を示すために記したものであるkotobank.jpja.wikipedia.org。道元はその中で、「坐禅こそ仏道の正門」であると説き、坐禅の本質や伝統、心得、具体的方法、そして功徳を明らかにした。文章は漢文で書かれており、高い文語体で禅の精神を述べているkotobank.jp。この書は、結跏趺坐などの具体的な坐禅法を詳述した日本最初の本格的坐禅儀であると評される。

只管打坐の思想

道元は坐禅において「只管打坐(しかんたざ)」という考え方を主張する。これは文字通り「ただひたすら坐る」ことを意味し、悟りに到達しようとする思いすら離れた、無心の坐禅を指す。道元は『普勧坐禅儀』で、言葉や理論による修行(知的理解による修行)を退け、逆に「回光返照(光を内に返らせて自己を照らす)」ことを学ぶべきだと説くaustinzencenter.org。すなわち、自らの内側に光を向けるようにすることで「身心自然脱落、本来面目現前」(身も心も自然に落ち、本来の姿が現れる)として悟りが現成すると説いているaustinzencenter.org。さらに道元は、「坐禅はただ安らぎと至福の法門であり、完全に究められた悟りの修証の法門である」と語り、坐禅そのものが悟りの修行であり、学問や技術とは異なることを強調するaustinzencenter.org。つまり、坐禅は悟りを得るための手段ではなく、すでに悟りの本質そのものを開示する実践なのである。

また道元は、執着や分別心があると正しい坐禅はできないと警告する。「わずかな好き嫌いが生じると心は紛乱に落ちる」という言葉通りaustinzencenter.org、偏った心では真理を見失うとする。一方で釈迦や達磨といった先人の修行を引き合いに、長年にわたる厳しい坐禅修行の伝統を尊重している(釈迦の六年の端坐、達磨の九年の壁坐)austinzencenter.org。そのうえで、私心なく坐禅に専心するよう強く促す。「仏になることを企ててはならない」「坐禅は坐ることや寝ることとは何の関係もない」といった教えからもaustinzencenter.org、坐禅には一切の結果期待や形式的所作がないことが分かる。さらに、外的な手段(指示や幡、棒など)によって悟りに至るという方法を否定しaustinzencenter.org、言語や理屈を超えた直接体験としての坐禅を唯々重視する態度が示されている。総じて道元の姿勢は、ただひたすら坐る「只管打坐」によって、仏法の真髄を実践を通じて悟ることにある。

実践としての坐禅

『普勧坐禅儀』には、坐禅の具体的な姿勢と作法が詳細に示されているaustinzencenter.org。道元は次のような点を挙げている:

  • 坐禅する場所に厚い敷物を敷き、その上に坐蒲団を置く。そして結跏趺坐(右足を左腿に、左足を右腿に交叉させる組み方)または半跏趺坐で坐るaustinzencenter.org

  • 衣服や帯は乱れないように整え、右手を左足の上に置き、左手は右手の上に(掌を上に向けて)重ねる。このとき両手の両親指を軽く重ね合わせるaustinzencenter.org

  • 背筋を真っすぐにし、体が左右や前後に傾かないように保つ。とくに耳と肩、鼻と臍がそれぞれ水平・垂直方向に一直線に並ぶ姿勢を取るaustinzencenter.org

  • 舌を上顎(口の屋根)につけ、唇と歯はそろえて閉じる。目は常に開け、呼吸は鼻から静かに行うaustinzencenter.org

  • 姿勢が整ったら深呼吸し、体を左右に軽く揺らしてから動かざる状態で坐り続ける。このとき「考えないことを考える」、すなわち思考を手放した状態を維持することが坐禅の核心であるaustinzencenter.org

これらの指示は、中国禅の伝統的修行法にもとづいており、正しい姿勢と心構えによって坐禅を安定させることを目的としている。また、道元は静かな室内で雑事を離れ、節度ある食事を取り、善悪の判断や煩悩から解放されるよう勧めているaustinzencenter.org

おわりに

以上のように、道元禅師の『普勧坐禅儀』は、坐禅の本質と実践法を平易に説いた基本文献である。ここで示された「只管打坐」の思想は、ただひたすら坐ることで身心を洗い落とし、本来の仏性を現前させるという道元の核心的教えを表しているaustinzencenter.orgaustinzencenter.org。同時に、釈迦・菩提達磨の実践を引き合いに出しながら当時の修行者に自らの坐禅を見直すよう促し、外面的な儀礼や理論からの解放を説いた点も重視される。これらの教えは曹洞禅の礎となり、現代の禅修行者にも普遍的な示唆を与えているといえよう。

参考資料: 道元『普勧坐禅儀』、各種仏教辞典・研究書kotobank.jpkotobank.jpja.wikipedia.orgaustinzencenter.orgaustinzencenter.orgほか。

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