概説
講談社文芸文庫旧約聖書外典(下)に収録されているらしい『エノク書』;この本にはいくつか種類があるようでややこしい。また文芸文庫は高価であり教文館のもまた然り。こういう時はどうするか。
基本的に聖書関係の本は、解説は抜きにして中学程度の英語で楽に読めるヴォキャブラリーであり、文体も単純である。生まれたとか、行ったとか、言った、見た、立った、や火、水、星などの言葉しかほぼ出てこない(それもそのはず天地創造時の古代には複雑な学問も物品もないのだから)。
"The Book of Enoch complete"で洋書を探せば、千円ちょっとで『エノク書』全文が読める。コンプリートの全文とは「第一エノク書」「第二エノク書」「第三エノク書」で、今回は一番ボリュームのある「第一」についてのレビュー。
偽典
市販の『アポクリファ』なんかにも収録が漏れている「第一エノク書」(以下エノク書と呼ぶ)は、エチオピア語でしか残存していないという。他にもこの国の言葉でしか残らなかった外典があり、歴史上注目に値する。
内容は正典から外されたのもなるほどと思わせる、ページ数が多く中身が若干希薄なところがある。つまり同じことの繰り返し。でもこの書はエチオピアの正教会では立派な正典なのである。
世代
エノクとは最初の人間アダムから数えて7代目の世代である。この7という数字はカバラで深い意味を持つらしく、聖なる本でしばしば使用される。しかもこのエノクは行きている間に天に上げられて地上から見えなくなった、という。
無論この人がいたとしても実際に書いたはずがなく、書物はエノクが書いたと記録されていても、はるか後世の人がエノクの名で書いたのである。ここに参考書として"Ancient Book of Jasher"がある。これは独自の暦としてAMを使って時系列を記録する。
AM?午前かと思いきゃそうではなく、”anno mundi” 世界年という意味である。すなわち天地創造およびアダムが作られた年を1とし数える。従ってエノクが生まれるのは622AM、死ぬのが(というか消えるのが)987AMで365年の生である。
この時代の人間は何百年も生きるので、7代で600年なのである。普通なら30年で子供を作るとしたら7代は210年しか経過しない。とんでもない長生きである。
感想
同じことの繰り返し、と言ったが聖書の、特に創世記のお決まりのフレーズや、最後の審判の予告を何回も聞かされるのは本当に疲れる。「エノク書」もそうである。ミルトンの「失楽園」やナグ・ハマディのグノーシス文書、例を挙げればきりがない。
しかしミルトンやナグ・ハマディはピリッとした味付けで文章が引き締められているが、「エノク書」は聞き飽きたことを何度も繰り返すだけなので結構つらい。昔の他の本にいくらでも書いてあることの繰り返しで、何も新たな知識は得られない。
黙示
天地創造、アダムとイヴ、蛇の誘惑。楽園追放そして巨人の発生、ノアの洪水、、、という死ぬほど退屈なお話。「エノク書」でもこれらをたっぷりと聞かされる。追加で「ヨハネ黙示録」や四福音書だけでも十分なのに、最後の審判についても延々と説かれる。
それはこうだ;人間が死ぬと嘘偽りのスピリットは最後の審判まできつくつらい場所で刑の宣告を待つ。世界が終わる時今の宇宙は破壊され新しい天地が創造される。この時に邪悪なスピリットと正しいスピリットのそれぞれに永遠の審判が下される。
両者は永遠に分けられ、この世でのように互いが互いを見ることは二度とない。時間は経過するが永遠は永遠であるから、永遠の決定は恐ろしいものである。偉大な審判は真実なる者が行うので、嘘偽りによって得た平安も楽しみも、真実によって暴かれる。とこのようなことが書かれている。
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