宴会と不吉な手
旧約聖書『ダニエル書』ほど、不思議な雰囲気をたたえた本も珍しい。短いながら、神秘的な物語と言葉に満ちている。
なかでも有名なのが、“メネ・メネ・テケル・ウパルシン”のエピソードだ。これは章の題名ではない。内容はこうだ──。
あるとき、王が華やかな宴会を開き、部下たちと共にこの世の快楽に酔いしれていた。そこへ突如、人間の手だけが現れ、壁に文字を書き付けた。
しかし、その場の誰一人として、それを読むことができなかった。
最後に呼ばれたダニエルだけが、その文字を解読する。
──そこに刻まれていたのが、”メネ・メネ・テケル・ウパルシン”であった。
数えられ、秤られ、分けられる
ダニエルによる解読によれば、
- “メネ”=「数える」(Number)
- “テケル”=「秤る」(Weigh)
- “ウパルシン”=「分ける」(Divide)
これらは王の運命を告げているという。
──つまり、「王の命運は数え尽くされ、目方を秤られた結果、軽すぎた。そして国は分裂し、他者の手に渡るだろう。」
言い換えればこうだ。
「王の時間は終わり、力尽き、肉体は分解されて滅びる。」
Divideとは何か
「数える」「秤る」はまだわかりやすいが、「分ける」(Divide)は少し解釈が難しい。
Divideという単語は、ウィリアム・ブレイクの詩に頻出し、また『創世記』では創造主が最初の日に光と闇を「分けた」ときにも使われている。
ここでは、Divideは滅び、断絶、破壊を意味している。
例を挙げよう;
- ① AV機器をバットで叩き割る(機器の分離)
- ② 生物の細胞がバラバラに分かれる(肉体の分離)
- ③ 国家の分裂(国の分離)
- ④ 集団の孤立化(人の分離)
何であれ、要素をバラバラにすればいい。それがDivideであり、滅びである。
まとめ──運命の秤
“メネ”が二度繰り返されるのは、それだけ「数えたことを確認した」──慎重な検算を意味する。
そして、数が天秤にかけられたとき、王は軽すぎた。
古代エジプトでは、死後に心臓を羽毛と秤り、重すぎると地獄行きだった。しかし、ここでは逆だ。軽すぎるがゆえに、王は裁かれる。
──数えられ、秤られ、分けられ、焼かれ、形も声も失う。
それが、王に告げられた終末だった。
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