ホメロス『イリアス』あらすじと感想|英雄アキレウスとヘクトールの戦い
ホメロス(紀元前8世紀頃)は、ギリシャ文学の源流とも言える大詩人です。代表作『イリアス』と『オデュッセイア』は、後世の文学・芸術・哲学にまで多大な影響を与えました。ホメロスは盲目であったと伝えられ、その物語は長く口承によって語り継がれてきました。
本記事では、英雄アキレウスとトロイの王子ヘクトールの壮絶な戦いを描いた叙事詩『イリアス』を紹介します。
◯姉妹編『オデュッセイア』はこちら→【ホメロス】『オデュッセイア』紹介〜幻想と冒険の詩の原型
ホメロスの文体と読みやすさ
岩波文庫版の訳文は、詩行を小説のように自然につなぎ、読みやすい構成となっています。文体は飾らず古代人らしく素朴で、子供の頃に聞いた英雄譚のように流れるように読めるでしょう。ただし戦闘場面が延々と続くため、じっくり構えて読むのがコツです。
物語の背景
「イリアス」とは、トロイ(イリオス)という都市に由来する名称です。作中ではギリシャ連合軍(アカイア勢)とトロイ軍との戦争が描かれ、主に二人の英雄――ギリシャ側のアキレウスと、トロイ側のヘクトール――の物語に焦点が当てられます。
映画『トロイ』(主演:ブラッド・ピット)はこの物語を題材にしていますが、アレンジが加えられている点に注意が必要です。とはいえ、ビジュアルを思い浮かべながら読むには良い導入となります。
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あらすじ(『イリアス』の筋)
物語は、総大将アガメムノンがアキレウスの愛妾ブリセイスを奪ったことで、アキレウスが怒り戦線を離脱する場面から始まります。怒れるアキレウスの不在によって、アカイア勢はヘクトール率いるトロイ軍に押され、劣勢に立たされていきます。
パトロクロスの死
アキレウスは親友パトロクロスに自軍の兵を預けて出陣させます。パトロクロスはアキレウスの鎧をまとい勇猛に戦いますが、深入りしすぎてヘクトールに討たれ、鎧も奪われてしまいます。
アキレウスの復讐
親友の死に怒りに燃えるアキレウスは、神ヘーパイストスが鍛えた新たな武具を得て戦場に復帰。トロイ軍をなぎ倒し、ヘクトールを追い詰めて一騎打ちの末に討ち取ります。死体を戦車にくくりつけて引きずり回すという残酷な儀式で敵に見せしめを行います。
プリアモス王の懇願
夜、ヘクトールの父プリアモス王が命をかけてアキレウスの元を訪れ、息子の遺体を返してほしいと懇願します。その誠意に胸を打たれたアキレウスは遺体を返還し、12日間の休戦を約束します。ここで『イリアス』は幕を閉じます。
神々と英雄たちの世界
神々が人間の運命に介入し、馬が言葉を話し、大楯が月のように輝く――ホメロスの世界は神話と現実が渾然一体となっています。英雄たちの怒り、誇り、死が、叙事詩の形式を通じて壮大に描かれていきます。
神々の力=エネルゲイア、英雄たちの名誉=クレオス。それはプラトンが語る「敬虔」の原型でもあり、ギリシャ的精神の精髄なのかもしれません。
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