2019年8月30日より日本公開されているタランティーノ映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のレビュー。
予習
『ファースト・マン』以来劇場に足を運んだ。YouTubeで予告を見て一発で夢中になり、関連動画を漁った。いち早く公開されたアメリカのリーク動画などはあまり見ないようにした。
AppleMusicでサントラおよび関連バンドを片端からライブラリに追加し、シャロン・テート事件やチャールズ・マンソンの情報をネットで調べた。鑑賞前の予習はこれくらい。
(タランティーノが採用した60年代の音楽やバンドが実に良く、特にチャールズ・マンソンのアルバム『Lie』がかなりかっこ良かった。)
昔々
”昔々”という意味のタイトルだが69年と言えばもうひと昔である。この時代をリアルに再現するだけで立派にSFになる。この作品は音楽もさることながら文化、車、スピリッツどれをとっても当時の雰囲気そのままだ。
筆者個人の思い出になるが”昔の映画を昔の映画館で”観ているような錯覚に陥る。年齢的にブルース・リーの『燃えよドラゴン』が公開された70年代の話になってしまうが、子供の頃田舎の汚い映画館の2本立てに良く両親に連れていかれたものである。
昔の作品がそうであるごとく『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も映像が地面に張り付いている。すなわち出てくるのは車、女、人間同士の会話、銃やナイフ、殴り合いである。そしてそれらの映像をバックにしてサントラの音楽が映画館の大音量で流れる。
古い車のエンジン音とラジオ番組の曲はこの映画の醍醐味である。ちょうど昔のロード・ムービーぽい感がするのはこのせいだろう。ロス・ブラボーズの曲に合わせブラピがアメ車で道路をぶっ飛ばすシーンがスクリーンの端から端まで映し出される。
スタントマン
タランティーノらしい、近年稀に見る最高にかっこいい映画だがやや上映時間が長いのでトイレに行って肝心の場面を見逃さないように飲食はしない方が良い。ひたすら素晴らしい映画を観ることに執着しよう。
あらすじを軽くバラすと、予告や事前情報で客の予測を裏切るというのは良くあることである。つまりこの作品は事実に基いた設定ではないのだ。シャロン・テートは殺されず隣のディカプリオの家に侵入したヒッピー3人はブラピらに皆殺しにされる。
チャールズ・マンソンとブラピの接触は一切ない。従ってこのカルト犯罪者は映画にほぼ登場しない。この作品の中心はブラピ演ずるスタントマンの気狂いぶりである。彼の役は今まででも最高と呼べるくらいにハマっている。
勿論ディカプリオもブチ切れていて良い。『スーサイド・スクワッド』ハーレー・クィーン役マーゴット・ロビーの良い体を拝めるのも魅力だ。しかし最後まで脳に焼きつくのはスタントマン、クリフの無茶苦茶ぶりであり、彼が象徴するのは荒削りな当時のアメリカ映画そのもなのだ。