谷崎潤一郎『細雪』感想レビュー|姉妹の情と婚活を描く昭和の名作

小説

【谷崎潤一郎】『細雪(ささめゆき)』〜遅すぎる婚活・昭和初期バージョン

本作『細雪』は、谷崎潤一郎が第2次世界大戦中に戦火を逃れつつ執筆した長編小説。中央公論での連載はわずか2回で軍部の検閲により中止されましたが、谷崎は筆を止めることなく書き続け、後に名作として完成させました。

登場人物・幸子のモデルは、谷崎夫人・松子氏。作品の題名『細雪』については諸説ありますが、おそらく中心人物・雪子の繊細な性格を象徴していると考えられます。

あらすじ

物語の舞台は昭和初期の大阪。名家の娘たち——長女の鶴子、次女の幸子、三女の雪子、四女の妙子——が織りなす姉妹模様。

すでに家庭を持つ鶴子を除き、物語の中心は雪子の縁談話。美人姉妹として知られ、電車で目立つほどの華やかさを持ちながらも、雪子の嫁入りが難航する様子が丹念に描かれていきます。

昭和の婚活事情

舞台は大阪の上流階級。会話は関西弁で進み、婚活は本人よりも“世話人”の奮闘によって展開されます。若い頃、家が高望みをし過ぎた結果、雪子は婚期を逃し、さらに妹・妙子の駆け落ち事件が悪影響に。美しさを保ちつつも、30代半ばを過ぎて良縁に恵まれない苦悩が描かれます。

対照的な姉妹たち

幸子はすでに嫁いで娘・悦子がいますが、独身の雪子と妙子は幸子の家に身を寄せています。

妙子は現代風の自由な女性。奔放で恋愛にも積極的、いわば『痴人の愛』のナオミを思わせる存在です。対する雪子は古風で控えめ。すべてにおいて受動的な姿勢を貫きます。

決まらぬ見合い、そして結納

見合いのたびに相手に“傷”が見つかり破談になる繰り返し。しかし、ようやく決まったのは華族出身の中年男性。身分は申し分なく、贅沢も言っていられない年齢になった雪子は、ついに35歳で嫁入りを果たします。

相手は米国で航空学を学んだものの職を転々とし、建築設計などをしているという一風変わった経歴の持ち主。挙式当日、雪子は極度の緊張からか、まさかの「下痢」状態に…。

妙子の終幕と姉妹の分岐

一方、妙子はバーテンダーとの子どもを亡くし、幸子の家から荷物をこっそり片付けます。その後、妙子の部屋には雪子への贈り物がずらりと並べられていたのでした。

まとめと感想

奔放な妙子が災難に見舞われる一方、古風な雪子は華族の妻となる——。しかしそれが幸福かというと疑問が残ります。結婚よりも、3姉妹で仲良く出かけていた日々こそが雪子にとっての本当の幸せだったのかもしれません。

読み終えた瞬間、腕に鳥肌が立ちました。『細雪』というタイトルのとおり、作品全体に日本的な美と情緒が繊細に降り積もっています。

▼関連リンク

▶️ 【谷崎潤一郎】『痴人の愛』〜ヴィーナス像のような若妻に溺れる中年男の破滅

コメント

タイトルとURLをコピーしました