【シェイクスピア『あらし』】魔法と赦しの物語〜無人島に広がる幻想世界
シェイクスピア晩年の作品とされる『あらし(テンペスト)』は、魔法と幻想に満ちた無人島を舞台に、裏切り、復讐、そして赦しへと至るドラマが展開される異色の戯曲です。
追放されたミラノ公と娘の漂流
物語の主人公は、学問と魔法の研究に没頭するあまり、ミラノ公の座を弟に奪われて追放されたプロスペロー。その際、彼は幼い娘ミランダと共に小舟で海に流され、やがて無人島に流れ着きます。そこで彼は妖精や怪物たちを従え、魔法の力を極めながら、娘を育てていきました。
嵐とナポリ王の来訪
年月が経ち、プロスペローはついに復讐の機会を得ます。魔法の力で嵐を起こし、ナポリ王一行の船を島へと誘導。表向きは沈没に見せかけて、乗船者たちは島へ無傷で漂着します。その中には、かつて彼を追放した張本人である弟も含まれていました。
若い恋と策謀
ナポリ王の息子フェルディナンドは島でミランダと出会い、一目で恋に落ちます。これもプロスペローの計略のうち。彼はこの結婚によって、娘を正当な地位に戻してやろうと考えていました。
一方、島には異形の怪物キャリバンも住んでおり、プロスペローに反感を抱いています。酒に酔ったトリンキュローとステファノーという道化と料理係がキャリバンと出会い、三人はプロスペロー打倒を企てますが……。
空気の妖精アリエルの活躍
しかしすべてはプロスペローの掌の上。忠実な空気の精アリエルが常に見張っており、キャリバンたちの陰謀も失敗に終わります。
最終的にプロスペローは復讐を思いとどまり、弟やナポリ王を赦します。娘とフェルディナンドの結婚も認められ、プロスペローはミラノ公としての地位を取り戻して物語は終わります。
感想:幻想劇に込められた円熟のまなざし
『あらし』は、復讐劇でありながら、最後には赦しと和解で締めくくられる穏やかな作品です。そこには、老いた作者の深い達観が感じられます。
無人島、魔法、妖精といった幻想的な要素は、『夏の夜の夢』を想起させる一方で、より落ち着いた筆致で描かれており、現実と夢のあわいに立つような浮遊感があります。
また、怪物キャリバンや妖精アリエルといった非人間的存在の描写も見逃せません。彼らは単なる脇役ではなく、人間の持つ野蛮さや自由への希求を象徴する存在でもあります。
シェイクスピア劇の中でもとりわけ「異色作」とされるこの戯曲。ぜひ一読をおすすめします。
コメント