シリーズ第2回目。今回は動物愛護団体から苦情が来そうな、当時の宮人のサディステイックな性格を垣間見る驚きの内容。
これをワイルドととるか、野卑ととるかは私たちに委ねられている。
御猫
陛下の可愛がっている猫”命婦のおとど”がある時、日向で行儀悪く寝ていた。これを見た世話役の乳母が、これまた殿様の飼っている犬である”翁丸”(おきなまろ)に、冗談で猫に嚙みつけ、と命ずる。
ところが犬は本気にし、おそれ多くも陛下の猫を襲おうと飛びかかる。猫は逃げた。殿様は食事の折に見てびっくりし、猫を抱くや「この犬を島流しにせよ」と処罰する。
島流しといいつつも実際は保健所のようなものなのだが、ここから犬が逃げ出して戻ってきたので、家来が二人掛かりで殴りまくる。なぜ、刃物などで楽に殺傷してあげないのか、と悩むが、畜生ごときに刃物を使うわけには行かないのだろう、と考える。
翁丸は見分けがつかないほど殴られ、死んだと思われて捨てられたが、夜見慣れない犬が震えながら歩いている。「翁丸」と呼んでも答えず寄り付きもしないので、あれは違う犬、翁丸は死んだということになった。
翁丸
さて翌朝に清少納言が皇后様の世話をしていると、再び昨夜の犬が見えた。やはり、あれは翁丸ではないか?涙を流し、震えて座っている。やっぱりそうだ!人々がやってきて犬の哀れな様を見世物にし、笑い者にする。その間も翁丸は、ちょこちょこと動いたりする。
「あんなに顔を腫らして。手当てしてやらねば」などと言いながら、罰を与えた殿様までが一緒になって笑う。死ぬほどに殴られ怪我をした飼い犬が戻ってきたのに、しばし皆で談笑するのである。こいつら”いとをかし”さえあるのならば、なんだって食い物にする、そういう暇な連中なのか?
ちょうどスマホで写真を撮りまくるのに似ている。まあまず、名を呼ばれ正体を表すと、翁丸は平服して涙を流した。犬は許されて元の身分に戻ったとさ。
感想
一瞬猫が主役かと思えば犬だった。この時代は偉い人間が謀反や陰謀で島流しにされ、高い地位から叩き落されることが多かったようだ。天神様の菅原道真も九州にやられたし、応天門放火した伴氏一家も処罰され遠流となったなど数えきれない。
だが源頼朝など、流されてから復活するパターンも結構あるようだ。応天門放火を描いた『伴大納言絵巻』の詞書を書いた人もそうである。この人は字が達人だったので重宝され復活した。このように何かを持っている人というのは、必ずや大切にされるものなのだなと感じた。
同じく翁丸も宮の猫を襲った科で一旦は死罪相当で流され、さらに殴り殺されそうにまでなった。しかし、反省の色を示し、涙を流して平服することで恩赦を受けたのだった。だがそもそも犬に指令を出した乳母が悪く、なんで翁丸がこんなにいじめられねばならないのだろうか、と感じさせる一編。