ジュリアス・シーザーは”ガイウス・ユリウス・カエサル”の英語名である。英雄的軍人・政治家・文筆家であり「ガリア戦記」を書いた。事実上、古代ローマ初代皇帝に匹敵する権限 ”終身独裁官” の位に付いた。(世界史上は初代皇帝はシーザーの姪の息子であるオクタヴィアヌスとされている。)
この戯曲はジュリアス・シーザーが信頼していた側近に謀られ、殺される悲劇を描いたもの。特に「ブルータス、お前もか!」は有名なセリフである。
奇怪な前兆
一身に権力を集中させたシーザーに不満を持つ不平分子らが、マーカス・ブルータスの高潔の士を立てて元老院の会議へ出かけるシーザーを殺すことに決める。その頃ローマでは様々な異常現象が起こっており、重大な異変の前兆と見られていた。
町の奴隷の1人が左手をあげるとそれは炎を上げて燃え出した。20本の松明を炊いたように真っ赤になりながら、手は火傷もしない。ローマの中心地でゼウスの神殿があるキャピトルのすぐ近くで、一頭のライオンが現れ通行人を睨み立ち去った。
火炎に包まれた男たちがうろつき、恐怖で逃げ惑う100人もの女たち。夜の梟がなぜか真昼間に市場にとまり、ホーホーと不気味な声で鳴く。雌ライオンは街中で子を産み、墓が開いて死人を吐き出す。戦闘態勢を整えた軍団が雲の上で戦い血の雨を降らす。
剣を交わす恐ろしい響きが空に轟き、馬はいななきをあげ瀕死の兵士は呻き、亡霊どもが細く鋭い喚き声を出しながら街路を彷徨き回る。
暗殺の日
元老院にいく日の前の夜、シーザーの妻カルパーニアは不気味な悪夢を見た;さらに1人の預言者スプリンナは「3月15日に注意せよ」と述べていた。妻はシーザーを引き止め今日は会議に行かないでくれと懇願する。
一旦は妻の願いを聞きいれて家にいることにしたものの、訪れた使者がそれらの前兆は不吉なのではなく良い兆しなのだと言いくるめた。納得したシーザーは不満分子に取り巻かれる形で元老院議場へ出かける。
道中あの預言者に出会う;「どうだ、何も起きないではないか」シーザーが言った。「3月15日は終わりません」と預言者は答えた。
シーザーの亡霊
ポンペイウス劇場が会議の場であった。シーザーはここへ向かう列柱廊で謀反人らに次々と剣で刺し貫かれた;全身の傷は23箇所、まさに英雄にふさわしいラオウのような壮絶な最後である。血しぶきを浴びた剣も乾かぬまま、シーザーの遺骸はフォーラムに運ばれる。
まず暗殺の実行者ブルータスが群衆に向かって演説をし、次に許可をもらってシーザーの腹心の友、マーカス・アントニウスが演説した。アントニウスは彼らにシーザーがどれほど市民のことを思っていたか、遺言を読んで聞かせた。
さらにどれほど優れた高貴な血が流されたかを語り、終いに暴動を起こさせた。世直しのための決起のはずが、日本の2.26事件の将校のように反逆者として死刑宣告を受ける。ブルータスたちは追い詰められ、次々自害する。ブルータスの枕元には裏切られたシーザーが訪れる。
”なんと薄暗いロウソクの光だ。おや、そこにいるのは誰だ?おそらく私の目が霞んでいるせいなのだろう、こんな恐ろしい物の怪が見えるとは!”ブルータスが言う。”ブルータス、お前の悪霊だ”亡霊が答える。”フィリパイの戦場でもう一度会うだろう”
マケドニアのフィリパイで軍団は破れた。ブルータスは部下に剣を持たせ顔を背けていろと命じ、走ってそれに飛び込んで死んだ。
まとめ
シーザー暗殺の動乱を経て第2回三頭政治と呼ばれるローマの統治は、前述の初代ローマ皇帝になるオクタヴィアヌス、腹心だったマーカス・アントニウス、レピダスらの手に移る。以後の話は戯曲「アントニーとクレオパトラ」へと続く。
スエトニウス「ローマ皇帝伝」によれば、シーザーは生前自分の死に方について「思いがけない死、突然の死こそ望ましい」と言ったとされる。常に死ぬ覚悟ができていなければ言えない言葉。まさに古代ローマ人である。
「ジュリアス・シーザー」は筆者個人的に一番好きなシェイクスピア劇で、展開がややこしくなくて真っ直ぐでドラマティックである。古代ローマ人やローマ皇帝に興味ある人ならさらに面白く読めるだろう。筋書きも歴史に忠実で勉強にもなる。星5つ⭐⭐⭐⭐⭐
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