ボードレール【悪の華】原文読〜irremediable,destruction(どうにもならないもの、破壊)

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どうにもならないもの

”irremediable”は『悪の華』のspleen et idealの章の最後付近に掲載されている詩である。どうにもならないもの、と邦訳される。irremediableという語には悪魔を意味するdiableが含まれる。どうにも対抗不可能な悪魔の効力とでもいった意味があるのかもしれない。

いったいどんな時の心情を記述した詩なのであろうか。チベット仏教でいうところのシパ・バルドゥ状態に近いのではないだろうか。つまり善と理性の清浄な水晶の座から、悪を行ったもしくは悪の力の作用を受けたことで、ボードレールは泥沼の底で苦しみ足掻いている。

実際に肉体は一人部屋のアパルトメントにいようとも、魂や精神はelevationで歌ったような至高の境地を飛翔もすれば、怪物どものひしめく暗黒に落ちることもある。

une idee ,une forme ,un etre

「ひとつのイデア、ひとつの形体、ひとつの存在が」とボードレールは書き始める。

「蒼穹から離れ、泥と鉛のステュクスへと落ちた。そこには一条の太陽の天光も射し込まない。」

また自らをさまざな譬えと共に憐れみ、自らを蔑んだ記述が続く。

「魔法をかけられた不幸な者は、光と鍵とを探し求めながら、蛇どもで充ちた空間から逃れようと、無駄に悪戦苦闘する。」

un damne descendant sans lamp

絶望の闇に輝く印象的な隠喩が2つ;「地獄に落ちた者が延々と続く無限の階段を降りていく」という譬えがある。

「階段に安全を守る手すりはなく、暗闇の中にはネバネバした怪物どもがギラギラした目を光らせている。怪物どもの青白く光る目以外は何も見えない。」

もう1つ、「北極で氷の海に閉ざされて動けなくなった船」という譬え。「なぜこのような致命的な運命に見舞われることになったのか不思議がっている」という。

まさに「どうにもならない」。なすすべもなく悪魔の力に屈するのみ。

flambeau de grace satanic

実際はボードレールは部屋でロウソクの灯りを見つめているのかもしれない。いつもの自由で優雅な思考の自由が奪われ、現生の苦しみの中で肩で息をしているのかもしれない。

持病の梅毒が再発して肉体的にも最悪だったのか、単純に精神的に具合悪かったのか、サルトルにでも分析してもらえばいい。

しかし詩人はこのような最悪の汚い精神状態も芸術に変える。そこが常人との違いであり、文学史上に高貴な名前を残す人の違いだ。

破壊

”destruction”「破壊」は<Les fleurs du mal>の fleurs du malセクションのしょっぱなの詩。こちらは何が原因かボードレールが凶暴な殺意と悪鬼のような破壊願望、吸血鬼のような流血への渇望を歌っている。

このように偉大な芸術家は自殺や犯罪を犯す代わりに、これらの衝動を真っ向から直視して作品にするのだ。

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