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【マルキ・ド・サド】「美徳の不幸」澁澤龍彦訳・新サド選集4より〜感想と紹介

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新サド選集

マルキ・ド・サドの澁澤龍彦訳「美徳の不幸」は人気で数多く出版されている。ここにあるのは桃源社から出た昭和40年11月20日初刷”新サド選集4”定価450円である。「サド公爵夫人」で知られる三島由紀夫が死ぬ5年前の本だが、氏も喜んでこれを読み澁澤と議論逞しゅうしたことであろう。

同じ内容で河出文庫でも売っているが、あえてこの古本のハードカバーを買ったのは、ただ読んでも面白くないし妖しい雰囲気を少し作り出したかったのだ。サドの小説は”悪徳は栄え美徳は不幸になる”という哲学が延々と繰り返されるため、いささか白ける瞬間があるのは仕方ない。

●参考→三島由紀夫【サド侯爵夫人】わかりやすく紹介・2018年最新

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バージョン

前の記事にも書いたが美徳の象徴の妹ジュスティーヌ物語は3つのバージョンがあり、「美徳の不幸」と名指される作品は、サドがまだバスティーユ牢獄の”自由の塔”にいた頃に書いたもの。この”自由の塔”ではサドの最初の長編小説である「ソドム120日」が生まれている。

「ソドム」が極限の狂気を表しているのに対し、「美徳の不幸」は道徳談義のようなところがあって少し物足りない。より過激なものをお望みなら「悪徳の栄え」とか「新ジュスティーヌ」が良い。それでもこの作品の良いところは漏れなく完訳されているという点である。

●関連→【マルキ・ド・サド】「新ジュスティーヌ」澁澤龍彦訳〜紹介と感想

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ジュスティーヌ

フランスの小説家のマンディアルグ氏もエッセーで書いているように、このジュスティーヌは美徳の女というよりは単なる間抜け・臆病者・馬鹿者として描かれており、美徳の不幸の物語というか”愚か者の不幸”と呼ぶ方が適切だ。

悪に対するのは善であり、決してこのような”愚かさ”ではない。善はもっと恐ろしいものである。さて小説の女主人公は姉ジュリエットが悪を重ねてどんどん金持ちになるのに対し、最後に部屋の窓辺で雷に打たれて死ぬ。残酷な拷問もあまりなく足の指を何本か切られて肩に焼印を押される程度である。

●関連→マンディアルグの【黒いエロス】〜見直されなければならないエロティシズムの定義

巻末付録

むしろ巻末付録の”ジェローム神父の物語”が良い。これは「新ジュスティーヌ」からの抜粋らしいが、「悪徳の栄え」を思わせる過激な悪党が出てくる残酷な話だ。またエトナ火山で出会った化学者と爆薬を発明する謀議をするところは実に素晴らしい。

「地獄の孔よ、俺もお前のように、もしも俺を取り巻く全ての町々を一飲みに滅ぼしてしまうことができたら、どんなに嬉し涙にくれることでもあろうか!」当時はまだ原子爆弾が発明されていないのでこんなファンタジーも生まれたのだろう。

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