ダンテ【神曲】まとめ(8)〜「地獄篇」第19歌・第20歌・第21歌
ダンテとウェルギリウスの旅は、地獄第8圏「マレボルジェ」の中盤へ。今回は第3〜第5ボルジア(悪の濠)をめぐる場面を扱う。それぞれの罪は、宗教的堕落、虚偽の預言、政治的腐敗に対応しており、詩人ダンテの怒りと諧謔が最も露骨に表れる場面である。
第19歌──シモニア(聖職売買)と逆さ吊りの法王
第3の濠に落ちた者たちは、聖なる職を金銭で売り買いした者──すなわち「シモニア」の罪人たちである。彼らは地面に頭を突っ込み、両脚を上にしてもがいている。
その足には炎が走り、踵からつま先までを焼き尽くす。神の名を商売道具にした彼らは、信仰の逆さまの姿として逆に吊るされているのだ。

▲ウィリアム・ブレイク「シモニアック・ポープ」
ダンテはこの罪人たちを「魔術師シモンの徒」と呼び糾弾する。これは新約聖書に登場するシモン・マグスに由来する呼び名で、聖霊の力を金で買おうとした異端者の象徴である。
第20歌──預言者たちの首は後ろを向く
第4の濠では、未来を予言し、偽りの神託を語った者たちが罰を受けている。彼らはすべて首が180度ねじ曲がり、後ろ向きにしか歩けない。この逆転の姿は、「未来ばかりを見ようとした代償」である。
ティレシアスやマントなど、神話由来の占い師が列をなして登場し、ダンテは彼らを通して「真理とは何か」を問うていく。
この時点で巡礼は、聖土曜日の朝6時──地獄巡りを始めてから12時間が経過していた。
第21歌──煮えたぎる瀝青(ピッチ)と悪鬼たち
第5の濠では、汚職や収賄を行った者たちが熱い瀝青(アスファルトのような液体)に浸され、鉤付きの槍で悪鬼に突かれている。
地獄の描写はここで急激に劇画調となり、悪鬼たちはそれぞれに名前と性格を持ち、ダンテたちとやり取りを交わす。
この章はある種の風刺劇のようであり、ダンテが当時の教会や政治への嫌悪をユーモアと痛烈な諷刺で表現している象徴的場面だ。
ブレイクと神曲の絵画的展開
今回もウィリアム・ブレイクの挿絵を紹介した。彼の描く『神曲』はギュスターヴ・ドレの古典的・荘厳な解釈とは異なり、独自の神秘的世界観で読む者のイメージを刺激してくる。
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