ダンテ『神曲』解説(14)煉獄篇:怠惰を超えて進む魂と愛に導かれる登攀

ダンテ【神曲】まとめ(14)〜「煉獄篇」第4歌・第5歌・第6歌

煉獄とは、キリスト教における罪ある魂が死後に浄化されるための場所である。天国と地獄の中間、神の慈悲によって救済への道が開かれる峻厳な山である。

英語では「Purgatory」。語源である「Purge(浄化する)」のとおり、ここでの苦しみは滅びではなく希望のための痛みである。

第4歌──怠け者ベラックワ

煉獄の山の登り口は、容赦ない急斜面だった。ダンテはヴェルギリウスに続き、四つん這いになりながらよじ登る。

やっと平地に辿り着くと、ヴェルギリウスは太陽の位置が逆転した理由を説明する。そしてこの山は登るほどに楽になるという性質をもつと告げる。

その途中で出会ったのが、楽器職人ベラックワ。彼は自堕落な生活を悔い、死の間際に回心したものの、ここで天の許しを待っていた。

まだ煉獄の門にさえ至らぬ彼は、怠惰の罪を脱するまで、登る資格がないのだ。

第5歌──影ある者と非業の死者たち

聖歌を歌いながら進んでくる一行の中に、非業の死を遂げた魂たちがいた。彼らも死に際して悔い改めたため、煉獄に導かれたのだった。

生きた身体を持つダンテには影がある。それを見て亡霊たちはざわつくが、師は「周囲の雑音に惑わされるな」と語る。

この章では、ヤーコポ・デル・カッセロ、ブオンコンテ・ダ・モンテフェルトロといった具体的な人物が、それぞれの悲惨な最期を語る。

第6歌──希望の力、ベアトリーチェの名

ダンテは祈りと回心の物語を聞きながら、魂たちから言伝を頼まれ、心に留めながら登っていく。

そして、ヴェルギリウスから告げられる──この山の頂で、ベアトリーチェに会えると。

その知らせにダンテは歓喜し、疲れも痛みも忘れて先を急ぐ。その愛の力が、彼をまっすぐに駆り立てる。

またこの場面では、詩人ソルデルロとの出会いも描かれる。魂と魂の詩的な共鳴が、煉獄の静謐な空間を彩る。

まとめ──愛に導かれる魂の登攀

24歳で亡くなった女性・ベアトリーチェへの崇高な愛は、ダンテにとって魂を導く北極星である。

魂が死後も生き続けるという信仰──それはキリスト教に限らず、古代エジプトの神官たちやプラトンの哲学にも共通する思想だ。

地獄が「罪の罰」なら、煉獄は「希望の苦悩」。だからこそ、ダンテは星の方向を見据えて歩みを止めないのだ。

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