今回は二人のルネサンス期の画家について書こうと思う。
「シモネッタ・ヴェスプッチの肖像」
上の絵はピエロ・ディ・コジモ(1462ー1521・イタリア)の「シモネッタ・ヴェスプッチの肖像」である。私がこの絵をはじめて見たのは澁澤龍彦の「幻想の肖像」という単行本においてであった。
本のしょっぱなを飾るこの画家についてのエピソードでは、ピエロ・ディ・コジモはとんでもない奇人だったことが紹介されている。ご多分に漏れず芸術家というものはやはり変わった人がなる職業なのだなぁと思ったわけであるが、澁澤の本に書かれていたのは人嫌いでひきこもり、部屋の掃除もせず食事もゆで卵しか食べない、最後は自宅の階段の下で孤独死したーといった内容だった。
現代ではさして珍しい生活スタイルではない。しかし引きこもりやすい世の中になったのはパソコンとインターネットがあるからで、ルネサンス時代ではこのような人は珍しかったのかもしれない。その人嫌いで変わり者の画家が青春時代に網膜に焼き付けた絶世の美女の面影を、23歳で彼女が亡くなった後に孤独な仕事部屋のキャンパスに腕をふるって再現したのである。
「悦楽の園」
続いてこちらの絵はヒエロニムス・ボッシュ(1450−1516・オランダ)の「悦楽の園」である。三連祭壇画といいその名のとおり3枚のパネルからなる教会の祭壇を飾る絵だ。
真ん中の絵を見ると左下の方に赤い海老の尻尾のような植物の先から、シャボン玉に似た果実が実り、その中で若い男女が裸で愛を語り合っているのが見える。この魅力的な細部の部分をCDジャケットにしたバンドもいた。DEAD-CAN-DANCEの”AION”である。
デッド・カン・ダンス
バンド名は「デカダンス」をもじったもの、アイオン(AION)とはヘルメス・トリスメギストス文書に出てくる語で、神の次の存在にあたり「永遠」などと訳される。ヘルメス文書において世界を構成する順序は「神→アイオン→コスモス→時間→生成」となっている。
ヘレニズム文化が発展した古代アレキサンドリアには世界最大の図書館があり、著作時期や地域は不明点も多いが文書はここで生まれたという説がある。膨大な蔵書はパピルスの巻物として図書館が戦争によって破壊されるまで保管されていた。
果物の恋人
若いカップルのデッサンはその下で殻の中に閉じ込められている男性の空想の産物なのか。男性はいくらか年をとっていて、無表情な、何かを待っているような顔をしている。「悦楽の園」がピエロ・ディ・コジモの絵だと私は勘違いしていたが、その原因はこの男性の顔がいかにも永遠化された女性を崇める詩人のようだからであろう。
この他にもボッシュの絵には特筆すべき摩訶不思議な詳細部分がたくさんあるので、チェックしてみると面白いだろう。