ストーンヘンジ――巨石に秘められた太古の詩
ストーンヘンジは、冬の終わりに差し込む曙光の中に静かに浮かび上がる。毎年夏至には、数万人がこの聖地に集い、巨石越しに昇る太陽を待ち望む。創元社『アルケミスト叢書』の『ストーンヘンジ 巨石文明の謎を解く』は、わずか60ページ余りながら、太古の人々がこの場所に込めた天文学的知識と祈りの記録を、豊富な図版と共にたどる小さな知の宝石箱である。
星と祭祀に刻まれた巨石文明
整然と並んだ石柱群は、まるで天体の舞踏をなぞるように配列されている。太陽と月の動きと対応し、石の配置自体が精緻な暦の役割を果たしていたことが知られている。とはいえ、今もなお「誰が、何のために」という問いは残り続ける。「5トンもの石を、220km離れた場所からどうやって?」という疑問に、本書は明確な答えを与えない。けれどその謎めいた構造こそ、現代人の想像力を刺激し続けている。
かつてはドルイド教の祭祀場と考えられたが、年代測定により、ストーンヘンジはその数千年前に築かれていたことが明らかになっている。それでもなお、現代の“ネオ・ドルイド”たちは夏至の夜明けにこの場所へ集まり、太陽と石の儀式に身を委ねる。こうして石の環は、過去と現在をつなぐ詩のような装置であり続ける。
ゆるやかな天界への参道「アヴェニュー」
濡れた草原をゆっくりとたどる一本道――それが「アヴェニュー」である。18世紀に発見されたこの道は、ストーンヘンジから3km先の川まで続き、夏至の日の出の方向と幾何学的に一致するよう設計されている。太陽とともに歩む巡礼者たちの足取りを、古代の旅人もまた辿ったに違いない。
紀元前2000年。文明も電波もまだ影を落とさぬ大地に、ひとり立つ旅人。雲と草の匂い、そよ風、そして石たちの沈黙――それだけが、彼を迎える宇宙の全てだった。
石に刻まれた神聖幾何学
ストーンヘンジは単なる記念碑ではない。数学そのものが石となった形象でもある。最新の研究では、ロープと単純な角度だけで高度な幾何図形が描かれていたことが示されている。外周部には直径約87mの円周上に56個の穴が並び、正方形と円の調和をもって測量された。
その構造が示すのは、普遍の法則。三角形の内角がいつの時代も180度であるように、幾何学は人類の時空を超えて語りかける言語なのだ。ストーンヘンジにおけるこの“神聖な配置”には、数学を通じて宇宙と接続しようとした人間の意志が確かに宿っている。
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