芥川龍之介『偸盗』感想・レビュー|盗賊と女の裏切り劇、月下のアクション

小説

【芥川龍之介】『偸盗』感想・レビュー|迫真、大正時代のアクション小説!

概要

“アクション小説”と聞いて芥川龍之介を思い浮かべる人は少ないかもしれない。だがこの『偸盗(ちゅうとう)』には、まぎれもなくその要素がある。
解説や学者の論評はひとまず脇に置こう。ここでは、読者としての率直な感想を綴っていきたい。それがこのブログの信条である。

芥川といえば、平安時代を舞台とした短編群が数多い。本作『偸盗』もその系譜に属しており、『羅生門』や『藪の中』と世界観を共有しているように感じられる。むしろ続き物にしてもよかったのでは?と思うほど、人物像や舞台設定に類似点が多い。

その背景には、平安京という“閉ざされた都市”の存在がある。
古語辞典の付録にもよく載っている平安京の碁盤の目状の地図――それは牢獄のような構造を持ち、逃げ場のない空間性を印象づける。かつて「平安京エイリアン」なるレトロゲームにハマった経験がある者なら、この感覚が腑に落ちるのではないだろうか。

あらすじ

『偸盗』は、荒廃した末期の平安京を舞台に、盗賊団の内部崩壊と悲劇を描いた物語だ。

物語は、街の片隅でうごめく盗賊たちが一軒の家に押し入る計画を練るところから始まる。首謀者は若く妖艶な女――男たちを手玉にとる色仕掛けの達人だ。だが、現代の基準でいえば“ぽっちゃり系”のビジュアルという描写が面白く、時代感覚の違いが垣間見える。

この女に翻弄されるのが、盗賊団に加わる兄弟。互いに女を巡って疑心を募らせるも、最後には騙されたと悟り、二人で女を斬り殺す。返り討ちに遭った彼らは、仲間を見捨て、馬に二人乗りして逃げるのである。
結末では、女が盗みに入る先の家人に計画を漏らしていたことが明かされ、盗賊たちは裏をかかれて壊滅する。

感想

この作品、芥川自身はさほど気に入っていなかったようだが、私にとっては非常に面白かった。
芥川の“時代劇”には月、闇、不安といった情景が共通して描かれるが、この作品にもその美意識がしっかり生きている。

特筆すべきは、やはりアクションシーンだろう。
太刀を振るいながら、犬たちに追われ、闇夜の街を必死で駆ける――そんな描写は、現代の時代小説に匹敵する迫力を持っている。文章でここまで“動き”を表現できる芥川は、やはり天才だったのだと改めて感じる。

短編とはいえ内容は濃く、人物の心理や関係性が巧みに描かれ、メロドラマ的要素も楽しめる。知的で技巧的な作品の多い芥川の中で、こうした生々しい物語は異彩を放っており、その点でも貴重だ。

“文学=退屈”と思っている人にこそ読んでほしい、迫真の短編である。

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