【マンディアルグ戯曲】『世紀の最後の夜』レビュー|預言と変身の怪奇劇を読む |

【Mandiargues】La Nuit séculaire「世紀の最後の夜」〜北欧の長い夜の大晦日

長い夜

1899年の12月31日の夜、ノルウェーの大都市ボードー。男爵夫人BARBROの家。2幕、登場人物8人;男爵夫人バルブロ、娘ロヴィーサ、3人の召使い女、3人のロシア海軍水夫。北欧の冬至過ぎ頃、永遠のような夜と暗闇。

男爵夫人は120才すなわち1779年生まれ、20才の時つまり1799年に、実在の歴史上の人物でもあるAxel von Fersenなる男に拐われ、犯され娘を身籠もる。その娘ロヴィーサはよって99才で不具のため小さな車椅子に乗る。

3人の女・3人の男

男爵夫人の屋敷に、3人の若い女中がいる。彼女たちは後に乱入してくる3人のロシア水兵のお相手をさせられるのだが、まずは屋敷中の煤を綺麗に掃除しろとの指令を受ける。女中たちはみな”キュロット”と言われる下着と”コルセット”を付けている。

当時までは女性が身に着けて当然だったであろう下着を、20世紀にはもはや身に着けてはならないと命令を受ける。そして最も重要なのは女性が自分の身体を”自由”にすることだと教育される。

(ロヴィーサは劇中に老衰で死ぬ。遺体はロシア水兵らによってスカンディナビア海域の暗黒の海に沈められる。しかし1幕の終わりで、死んだはずの娘は13才になって若く生き返り登場する。何とも不気味な展開である。)

アブサロン

少女には預言能力があり、母親から与えてもらった玩具の揺れる白い木馬<アブサロン>に乗って、未来に起こることを詩行形式で語る。

(“アブサロム”ともいい、旧約聖書「サムエル記」に出てくる髪の長い色男。父ダビデ王に反逆して死ぬ。その死に方は格好いい長髪が木の枝に引っ掛かり、宙づりになって動けなくなってしまい、その状態で見つかって殺されるのだ。)

ダブル・エクリプス

リルはマックス・ウォルターの誕生、タイタニック沈没などを語り、20世紀最後の年の出来事で締め括る。”あなたは1999年の夏に、太陽の二重日蝕を見るでしょう。それ以後のことは私には何も見えないのです。”ダブル・エクリプスという天文現象が実際にあるのか。→参考動画:SDO Witnesses A Double Eclipse

3人の召使い女の子は3人の水夫の情欲に供される。20世紀の幕が上がると同時に外では祝砲が鳴り響き、男爵夫人の命令で水夫らは女の子たちを寝室へと連れ去る。

男爵夫人バルブロ(Barbro)とは変な名前である。1つ綴を変えるとこコプト教の永遠者の英語名になる(?)が、この役は「背が高くて痩せた男性により演ぜられる」との作者の指示付き。120才で、体には一本の毛もなく、鼻と耳が削げおち仮面を被り一切の肌を現さない、一種の化け物である。

まとめ

娘ロヴィーサは13才のリルになって生き返るから、正確には登場人物は9人である。この娘の特徴は”70才になると倒れて歩けなくなる”ことだ。従って20世紀では1956〜57年に車椅子に乗る計算になるだろう。ちなみにその辺りは人類が初の人工衛星を打ち上げたなどの出来事がある。

劇の最終2幕にバルブロは自らの若返りを報告し、自らの不滅性を主張するのであった。すなわち現在我々が眺めている美しい女たちは、若くて新鮮なようで実は中身は年取った怪物なのであるという解釈になる。

彼女たちは過去の歴史上類を見ないような、身体を”自由”に用いる権利を得た。コルセットやキュロットやブラジャーを脱ぎ捨て身軽となり、水夫である男たちを虜にするのである。

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