古代ギリシャ哲学者アリストテレス(前4世紀)の本はその師プラトンのそれよりも、マニアックな内容を含む。プラトンが最後の奇書「ティマイオス」で、詩と哲学が融合したかのような深遠な文体で宇宙を論じたのに対し、アリストテレスの目は理性的でやや冷ややかではある。
しかし真剣な顔で時折冗談めいた持論を展開するアリストテレスの面白さは、他に類を見ない魅力が詰まっている。そんな中でも文庫化されていて一般読者にも手の届きやすい「動物誌」についてレビューしようと思う。
◯「ティマイオス」はこちら→プラトン【ティマイオス】おぼえがき・レビュー〜重要箇所をわかりやすく紹介
特徴
持ち前の分析論による方法で、ありとあらゆる動物に関する知識を初めて体系的にまとめた「動物誌」は、アリストテレスの偉大な業績である。もちろん私たちは小学校・中学校で初歩的な生物の分類や種類について学ぶ。
科学による知識が限られていた時代、アリストテレスの「動物誌」はいわば幼稚な動物図鑑にすぎないと思われるかもしれない。だが古代哲学者ならではの見方・考え方は、現代人の思いつかない驚きに満ちている。
認識
アリストテレスを読んでいると、人は地球上の色々な生き物の1種族にすぎないという思いが込み上げてくる。「自然学」で運動と場所について論じ、「天体論」で星座のひしめく第8の天界・恒星天から月の第1天まで、「生成消滅論」「気象論」で月下界と地球を取り巻く自然現象を認識する。
大地は不動であるという確固たる信念のもとに、徐々に天界から地上へ下ってきた認識・理性の目は、今やそこに満ち溢れる様々な生き物に向けられる。「産めよ、増えよ、満ち満ちよ」と造物主は、作られた空を飛ぶ生き物、地を這い草を食う生き物、水の中を泳ぐ生き物すべてを祝福して言った。
感覚
「動物誌」で論じられるのは感覚を持った生き物たちであり、生きてはいるが感覚を持たない生き物つまり「植物」に関しては、動物との比較という形でみ語られている。名をあげられる動物はググれば大抵の詳細な知識を私たちはネットで得られる。
すると動物という動物に記号がついており、絶滅まであとどれくらいという、悲しいデータばかり出てくる。現代の我々は被造物の形態や習性に驚嘆するとともに、アリストテレスが知らなかった知識を得てもいる。しかし同時に自然の生き物たちの保護まで考えなくてはならない。
人間
高度に発達した科学知識・技術は自然を破壊するとともに、月下界の被造物を危機に貶めているのだ。哲学”フィロソフィア”とはもともと”智を愛する”という意味であって、「アリストテレス」の名前は「最高の目的」の意味。
人が他のいかなる生き物とも異なる最大の点は「直立している」ことにある。つまり頭が宇宙の方を向いているのである。次に「言葉を話す」という点。声は音とは異なり、さらに言葉は声と異なる。さらに人は他の動物のように毛で覆われていないが、被覆を替えることによって色々な姿に変わる。
手もライオンのように頑丈な武器は付いていないが、極めて機能的な5本の指がある手が、色々な道具を持ち替えることによりあらゆる機能を可能にする。我々は動物を凌駕する高度な能力を与えられたのであるから、「最高の目的」のためにそれを用いる必要があるだろう。
*以下ここに書ききれなかった多くのことについては、追って続きの記事をあげる予定。
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◯アリストテレス記事→【アリストテレス】哲学:ばっさり解説〜天動説と宇宙論
→【アリストテレス】「自然学」〜場所と運動、時間とは何か〜”ヘルメス選集”との関連
◯プラトンまとめ→哲学者【プラトン】対話編〜レビュー・解説まとめ