三島由紀夫『近代能楽集』の楽しみ方|日本の伝統芸能「能」を現代に甦らせた名作
三島由紀夫の『近代能楽集』。その名前を聞いてもピンと来ない方のために、ここでは内容や魅力をわかりやすく紹介していきます。
■『近代能楽集』とは
本作は、日本の古典芸能「能楽」の有名演目8作を、現代劇として再構成した戯曲集です。三島は日本古典に深い造詣を持ち、それを愛し抜いた作家であり、本書はその集大成のひとつと言えるでしょう。
西洋では古典劇の再解釈は伝統的な手法であり、英訳者であるドナルド・キーンも、能とギリシャ悲劇、さらにはイタリア・オペラなどとの共通性を指摘しています。
■「能」とは何か
能は、日本の伝統芸能の中でも最も様式化された表現形式です。演目、舞台、衣装、面、音楽、そして台詞に至るまで、すべてが規則に則って構成されています。
初心者にはこちらのサイトがおすすめ:the能ドットコム
『近代能楽集』で扱われている能の原作のあらすじも同サイトで読むことができ、さらに実際の舞台をYouTubeなどで観ることで、視覚・聴覚的な理解も深まります。
三島の作品を入口にすれば、難解と思われがちな能の世界にスムーズに入っていけるのです。
■取り上げられた演目と構成
三島は、近代化に耐えうる普遍性を持つ能演目は8〜9作に限られると考え、以下の8作品を選びました:
- 邯鄲(かんたん)
- 綾の鼓(あやのつつみ)
- 卒塔婆小町(そとばこまち)
- 葵上(あおいのうえ)
- 班女(はんじょ)
- 道成寺(どうじょうじ)
- 熊野(ゆや)
- 弱法師(よろぼし)
これらの演目は、どれもシンプルな筋書きながらも、三島による大胆な再構成により、原作とは異なる印象的な結末を迎えるものもあります。
■三島の改編の特徴
原作では救済や浄化を描く演目も、三島の手にかかると破滅的・悲劇的な結末に変わることが少なくありません。
また、三島の演出では超自然的要素(生霊、夢、死霊など)が多く取り上げられ、ハムレットやギリシャ悲劇を彷彿とさせる構造が随所に見られます。
舞台装置は簡素で、言葉と情念だけで勝負するスタイルは、同じく三島の傑作戯曲『サド侯爵夫人』にも通じます。
→ 関連記事:三島由紀夫『サド侯爵夫人』の魅力と演出
■能の魅力を再発見する
三島のおかげで日本の古典芸能に目覚めた筆者が感じる、能の魅力とは──
- 変わらない松の背景と舞台建築の様式美
- 静と動の絶妙なバランスを持つ演技
- 太鼓や笛、仏教的な詞章の音楽性
- 妖艶で荘厳な能面と衣装の美
これらの要素は全て、まさに“日本文化の粋”と呼べるもの。三島由紀夫の功績に深く感謝し、日本文化の奥深さを再認識する契機となるでしょう。
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