イギリスを代表する詩人・画家ウィリアム・ブレイクの作品は、「予言の書」とも呼ばれるほど難解です。しかし、その謎めいた文章を支えるのが、鮮烈で個性的な挿絵たちです。
読む側が深く意味を掘り下げる必要はありません。感じたまま、直感で受け取ることこそが、ブレイクの作品を味わう方法でしょう。本シリーズは、全4回にわたって『天国と地獄の結婚』を読み解く試みです。1回あたり約2000字。原文に触れながら、翻訳と解釈を行っていきます。
*前回はこちら→【ブレイク詩解読】天国と地獄の結婚(2)―知恵は地獄より来たる
プレート15:記憶すべき寓話
ブレイクは「地獄の印刷所」において、知識がどのように代々受け継がれていくかを描きます。
第一の部屋では、ドラゴンの姿をした男が、洞窟の入り口の塵を掃除しています。奥では他のドラゴンたちが地中を掘り進んでいます。
第二の部屋には、洞窟や岩に巻きついた一匹の蝮。それを金や宝石で飾る者たちがいます。
第三の部屋では、羽と翼を持つ一羽の鷹が洞窟を無限の空間に変え、その周囲では鷹人間たちが、崖に壮麗な宮殿を築いています。
第四の部屋には、炎の獅子がいて、金属を流動体へと変えて荒れ狂っています。
第五の部屋には名もなき形体たちがいて、金属を広大な空間に放り投げています。
そしてすべての素材は第六の部屋にて人間によって書物のかたちにまとめられ、図書館に収められるのです。
プレート16〜17:古の巨人たち
かつて世界を感覚的存在として形づくった巨人たちは、今では鎖に繋がれているように見えるかもしれません。しかし実際には、彼らこそが生命の根源であり、活力の始原なのです。
鎖とは、弱さから生まれた奸智であり、地獄の箴言にもこう記されています——「勇気における弱者は、奸智における強者である」。
存在には常に「生産する者」と「消費する者」という二つの側面があり、前者は後者によって鎖に繋がれているように見える。しかしその鎖は幻想です。もし「神は唯一生産的な存在ではないか」と問われれば、ブレイクはこう答えるでしょう——「神は人と全存在の中にあって行為する存在である」。
この二者の対立は永遠に続きます。誰かがこれらを無理に和解させようとすれば、それは存在そのものを破壊することに等しい。イエスも言っています、「私は平和ではなく劔をもたらすために来た」と。
プレート17〜20:記憶すべき寓話
ある天使が私の前に現れ、「愚かな若者よ、そのまま進めば、お前は自らの手で燃え盛る牢獄を築いてしまうぞ」と警告しました。
私は返します。「ではあなたの運命と私の運命、どちらが良いか一緒に見てみましょう」
天使は私を連れて、馬小屋と教会を通り、粉挽き場、そして曲がりくねった洞窟へと進みます。その先には、空のように広がる無限の虚空がありました。
私たちは木の根に掴まり、その淵をのぞき込みます。「飛び込んで確かめてみましょうか?」と私は誘いますが、天使は拒みました。
私たちはそこに留まり、オークの根元に座って深淵を見つめました。天使はキノコに掴まり、下方に目を凝らしています。
深淵の幻
やがて、燃える都市の煙のように火が立ち上がり、深みを包みました。そこには黒く光る太陽と、その周りに群がる無数の蜘蛛が見えました。
腐敗から生まれたそれらの蜘蛛は、空気の中を泳ぐように動き、その姿はこの世のものとは思えないものでした。それこそが悪魔たち、「空気中の諸力」と呼ばれる存在です。
「私の運命はどれですか?」と尋ねると、天使は「黒い蜘蛛と白い蜘蛛の間だ」と答えました。
するとその間から火と雲が噴き出し、深淵は黒い嵐となり、何も見えなくなったのです。
リヴァイアサン
東の方角には、火に混じった血の瀑布が現れ、そこに巨大な鱗が浮き沈みしていました。やがて火のような鶏冠が波間から現れ、私たちはその双眼を目撃します。
それは、リヴァイアサンでした。虎のような額、紫と緑の縞模様。海はその怒りの熱気に蒸発し、波は黒くうねり、憤怒のすべてをまとったその姿が、私たちのもとに迫ってくるのでした。
*次回はこちら→【ブレイク詩解読】天国と地獄の結婚(4)―自由は地獄に宿る
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