ロイ・コーンとは誰か?ドキュメンタリーとトランプとの関係から読むアメリカ政治の闇

エッセー

ロイ・マーカス・コーンとは誰か?|赤狩りからトランプの師まで、その素顔と影響力を探る

「ロイ・コーンって誰?」──現代のアメリカ政治を追っていれば、ある瞬間にこの名前にぶつかるだろう。とりわけ、ドナルド・トランプ元大統領の「Where’s my Roy Cohn?(ロイ・コーンはどこだ?)」という嘆きの一言で再び注目を浴びたこの男。彼は単なる弁護士ではなく、20世紀アメリカの「闇」を象徴するような存在だった。

1. ロイ・マーカス・コーンとは何者だったのか?

ロイ・マーカス・コーン(Roy Marcus Cohn, 1927–1986)は、ニューヨーク生まれの弁護士・検察官。最も有名なのは、1950年代に吹き荒れた共産主義者狩り=“赤狩り”の首謀者の一人としての役割だ。上院議員ジョセフ・マッカーシーの側近として、反共産主義キャンペーンを推進。多くの政府関係者や知識人が“容疑者”として職や地位を追われた。

中でも劇作家アーサー・ミラーや俳優チャーリー・チャップリンなど、文化人への影響も大きく、いわば“魔女狩り”の現代版を演出したのがこのコーンである。

2. ドキュメンタリー『ロイ・コーンの真実』とは?

2019年に公開されたドキュメンタリー映画『Where’s My Roy Cohn?(ロイ・コーンの真実)』は、この謎多き男の生涯を赤裸々に描いた作品だ。監督はマット・タイナウアー(Matt Tyrnauer)。

映画では、コーンの冷酷な弁護士としての一面、政治的野心、メディア操作、そして同性性愛を隠しながら同性愛者を弾圧するという自己矛盾的な人生が浮き彫りになる。実際、コーンはエイズによる合併症で1986年に亡くなるが、死の直前まで自身が同性愛者であることもエイズ患者であることも否定し続けた。

タイトルの「Where’s My Roy Cohn?」は、トランプ大統領が司法長官セッションズに失望した際に吐いた言葉であり、映画の中心テーマにもなっている。

3. ロイ・コーンとドナルド・トランプの関係

ロイ・コーンは若き日のドナルド・トランプの「メンター」だった。1970年代、トランプ一家が住宅差別で告発された際、コーンはトランプの代理人として辣腕を振るう。裁判で徹底抗戦し、和解に持ち込むスタイルは、後のトランプの手法に通じる。

コーンの信条は「絶対に謝罪しない」「弱さを見せるな」「攻撃されたら10倍返し」。これはトランプの政治的スタイルそのものと言っていい。

トランプにとって、ロイ・コーンは法律家以上の存在──戦略家、守護神、そして“教祖”のようなものだった。

4. 影響と遺産:ロイ・コーンの現在への波及

コーンは死後も“影の権力”としてアメリカ社会に影を落とし続けている。トランプ政権における強硬な移民政策や司法への敵視、メディア批判の姿勢は、コーンの思想が生き延びている証左とも言える。

また、『ロイ・コーンの真実』は、なぜアメリカがこうなってしまったのか──その原因を一人の人物に収束させようとする試みでもある。マッカーシズムからトランプ主義へ。ロイ・コーンはまさにその“橋渡し”の存在だった。

まとめ|なぜ今、ロイ・コーンを知るべきなのか?

ロイ・マーカス・コーンの人生は、アメリカの“闇の部分”を体現したようなものだった。赤狩り、反同性愛、権力志向、メディア操作──そしてトランプという後継者への影響。

『ロイ・コーンの真実』を通してその生涯を知ることは、同時に現代アメリカの政治的分断やポピュリズムを理解する鍵ともなる。

あなたの中の「なぜ今、世界はこうなのか?」という問いに、ロイ・コーンという名前が答えの一部を持っているかもしれない。

ロイ・コーンの真実 (字幕版)

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