評論

【谷崎潤一郎】「陰翳礼賛」〜谷崎潤一郎氏の美学論を紹介

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作品概要

谷崎潤一郎の有名な「陰翳礼賛」(いんえいらいさん)は小説ではない。評論というか随筆というか、著者の美学・芸術論のような読み物。意味をフランス語に直訳すれば "Hymne à l'obscur" でもあろうか。

筆者も短編小説かと思って読み始めたのであるが、谷崎氏が嗜好する独自の文学世界をそのまま解説するかのような文章に虜となった。

グイグイと引き込まれて読み終わり、読後には日本文化について、またフランスはじめ外国でも愛される谷崎氏の芸術についても考えさせられた。

まさしく日本には谷崎氏が描いたような陰翳の美があるような気がしてきた;またこの随筆の内容は日本の建築様式への賛美も含んでいるため、現代の建築家の方にも有意義なものであると感じられた。

伝統美

作品の中で谷崎氏が讃えているのは、日本間というものがあえて影・闇を作り出していることだった。現代で言えば間接照明のこと。よく分譲マンションの広告で室内を間接照明で薄暗くし、わざと天井の灯りを消して落ち着いた雰囲気を醸し出しているのを見るだろう;あれである。

作品が書かれた当時、日本は西洋の文明を無理やり腹に詰め込まされ、それまでの時間の流れの中でゆっくり築いてきた「日本の美」を台無しにしている、と著者は嘆く。

伝統と由緒ある書院造にそぐわない雰囲気の、電灯やストーブ、扇風機、トイレ、風呂。それらの継ぎ接ぎされた日本文化のぎこちなさ;そういったものに対する逆らえない憤りを谷崎氏はぶちまける。

日本建築

氏によれば日本建築の持つ長い庇の出、床の間の奥まった凹み、駄々広い座敷の四隅の暗がりにこそ本来の「日本の美」が潜むのだという;魑魅魍魎と呼ぶのがふさわしいそれらの闇の中に、金箔に彩られた漆器の絢爛さがパッと妖しく光り輝く。

蝋燭に照らされた室の質素な砂壁、戸の障子を透かして差し込む月明かり;などなど祖先が追求した美は陰翳の中にこそあり、西洋の何でもかんでも明るく浮き立たせる趣向とは相容れないものであると。

まとめ

なんでもピカピカに磨き立てたがる舶来趣味に異を唱え、我らの育んできた”さび”の魅力を語る。それは手垢やある程度の不潔さ・暗さとマッチしたまさしく「渋い」というこの国独特の美なのである。

最後に谷崎氏は現実世界の文明がそういったぎこちなさを受け入れざるを得ないのなら、せめて己の文学の中だけでも「陰翳の持つ美」を実現すると高らかに宣言する。

フランスのプレイヤッド叢書に出ている唯一の日本人作家。言うまでもなく谷崎潤一郎の世界はそれに成功している;三島由紀夫も範とした谷崎氏の作品は、海外でも妖しく輝く魅力でもって読者を捉えて離さない。

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