『完全ひとりビジネス』感想|AI時代に通用する?副業マニュアルの虚と実

思考の化石

『完全ひとりビジネスを始めるための本』を読んで──“副業マニュアル”の挫折と滑稽

この本を読んだのは、仕事もなく、バイトに出れば腰を痛めて寝込むような日々だった。いわば「完全ひとりビジネス」という言葉にすがったひとりだった。

タイトルの通り、「自宅にこもったまま安定して稼ぐ」方法があるのだと信じた。だが実際に読んでみると、内容はどこか既視感のある、ネット副業界隈のテンプレート的な指南に終始している。

たとえば「クラウドソーシングでライティングの実績を積む」といったアドバイス。言っていることは間違っていないのだが、実際の報酬は1文字0.2円から0.5円の世界。水を打って叩いて稼ぐレベルで、数ヶ月試した結果、収支はマイナス。書いても書いても焼け石に水だった。

本書は、初心者が「とりあえず何をしたらいいか」には答えてくれる。しかし、それをやったとして現実が動くかどうかは、まったく別の話だ。

しかも、今となっては──これはもっと決定的なことだが──この本が出版された2016年から、たった8〜9年のあいだに、世界は激変してしまった。

「WEBライター」?「イラストレーター」? それらはもはや、AIが月額3,500円で無制限に肩代わりするような時代になっている。ChatGPTや画像生成AIが、いちいち外注などせずとも、人間が時間と神経をすり減らしてやっていたことを、ワンクリックで処理してしまう。
GoogleのGA4だって、アルゴリズムがもはやまるで別物になってしまったと聞く。

我らは、流動する海にいる。
確かなものなど、いまとなっては何もない。

それでも、この本を読んで得られたことがあるとすれば──「こんなに楽に稼げるわけがない」という冷静さだった。著者に罪はない。むしろその“我儘な貴方に読んでほしい”という煽り文句に、素直に釣られた自分を笑うべきなのだ。

「皆さん、本書を読んで全力で引きこもりましょう」

かつて、私は本当に全力で引きこもり、全力で副業に失敗した。それも今では、ちょっとした笑い話だ。

この本は、人生に絶望した瞬間に出会うのがちょうどいい。そしてその“浅さ”に気づいた時、自分の思考の深さにも気づける。そういう意味では、読んで損はない。

完全ひとりビジネスを始めるための本 自宅にこもったまま安定して稼ぎたい! 単行本 – 2016/12/13

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