トビト書とは?旧約外典に描かれた天使ラファエルと悪霊アズモダイオスの物語

詩煩悩

【トビト書】旧約外典より〜悪霊アズモダイオスを祓う天使ラファエル

聖書と聞くと多くの人が“正典”のみを思い浮かべるかもしれない。しかし、聖典の外にも数多くの「アポクリファ(外典)」が存在する。そしてそれらは「偽書」などと簡単に切り捨てられるものではない。

「正典」とは教会会議の政治的判断で選ばれたものであり、「外典」はその外に置かれただけにすぎない。内容の深みや真理性は、それ自体で読まれ、判断されるべきだ。

今回はその外典のひとつ、『トビト書(トビト記)』をご紹介しよう。信仰、悪霊祓い、奇跡、癒し――この書には神秘的な魅力が詰まっている。

善行の代償

舞台はアッシリア帝国時代の都市ニネベ。主人公トビトは敬虔なユダヤ人で、貧者には施しをし、死者には丁寧な埋葬を行っていた。

しかしこの“正しさ”が命取りとなる。王の命に背き死体を埋葬したことで、彼は財産を没収され逃亡を余儀なくされる。やがて恩赦によりニネベに戻るも、懲りずに死体を葬った結果、再び人々に嘲られる。

ある夜、庭の壁際で眠っていたトビトの目に、雀の糞が落ちる。それが原因で彼は失明し、妻を責め、絶望の淵に沈む。まるで旧約のヨブのように、神に死を願い祈るのだった。

サラと悪霊アズモダイオス

同じ頃、遠くメディアの地では、ラグエルの娘サラが苦悩していた。悪霊アズモダイオスが彼女に取り憑いており、婚約した7人の男はすべて初夜に殺されていた。

周囲からは「呪われた女」と揶揄され、父からも「いっそ死んでしまえ」と罵られる。サラは命を絶とうとするが、老いた両親を思いとどまり、神に祈る。

この二人の祈りは天に届き、神はラファエル――七大天使のひとりを地上に遣わす。

旅と奇跡

トビトは目が見えなくなってからも、家族の未来のために行動する。過去に預けた金を思い出し、息子トビアにそれを取りに行かせる決断をする。旅は危険を伴うため、同行者が必要だとされ、そこにラファエルが「普通の青年」として現れ同行する。

道中、チグリス川で大魚に襲われたトビアは、それを捕らえる。ラファエルはその魚の心臓、肝臓、胆嚢を取っておくよう助言する。これが後に、悪霊祓いと治癒の“聖なる道具”になるとは、当の本人たちはまだ知らない。

アズモダイオスの敗北と回復の奇跡

ラファエルの導きで、トビアとサラは出会い結婚する。初夜の寝室、トビアは魚の心臓と肝臓を香にくべると、悪霊アズモダイオスは煙を嫌い、叫びながら去っていった。

その後、トビアが父のもとへ戻り、魚の胆嚢を目に塗ると、トビトの視力が回復する。神に絶望していた者たちが、祈りと導きによって癒され、祝福される。

この物語には、“正しき行いは報われる”という旧約的倫理観と、“天の助けは人知れず訪れる”という神秘的信仰が息づいている。

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