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【マンディアルグ】「大理石」 Ⅳ. 証人のささやかな錬金夢〜註釈(1)

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マンディアルグの奇妙な長編小説『大理石』の第4部 ”証人のささやかな錬金夢” ( Petite oniroscopie du témoin) の註釈;しかし作者本人が述べているように主人公のフェレオル・ビュック自身の註釈は失われてしまっている。

なぜ彼が滞在していた海辺の塔に夢日記を打ち捨てて旅立ってしまったのか、その理由は不明なのである。さらに最後の”魚の尻尾”ではこの小説自体に対する結末・答えを読者に向かって投げてしまっている。

そういう意味も手伝って、筆者は大胆ではあるが第4部の勝手な解釈というか、註釈を付けてみようと思った;おそらくこれらの錬金夢(オニロスコピー)とは、マンディアルグ自身が「汚れた歳月」もしくは「白亜の時代」に体験した生と死の中間状態を自動筆記的に記述したものではないか、というのがまずひとつ。

では各夢を個別に追っていこう。

第1、第2の夢

第1の夢はマッコウクジラの巨大な牙から薔薇の花が咲く夢だ。それのみならず白い頭蓋骨が草原のように鮮やかな緑色に変わるのである。これは言うまでもなく死からの生命の復活を表している。

しかしその前には恐ろしい恐怖が立ちはだかっている。その恐怖は鯨の牙で表されている。エデンの園にある生命の樹もまた、回転するケルビムの炎の剣によって守護されていることを思い出そう。

第2の夢は同じ砂浜で横たわったまま、体が木に変わる夢だ。木像と化した体は全く身動きができないが少しも不快ではなかった。やがて体にチクチクする微細な電流のような刺激が走った。ちょうどスーパー銭湯にある電気風呂のような。

木像の体には直ちに緑色の蕾が吹き出し、またしても花が咲いた。体は花だらけになった。この夢はチベット仏教で言う”清らかな幻の体”の出現の瞬間である。また聖ヨハネは肉には肉の体があり、霊には霊の体があると語っている。ミルトンも「失楽園」で天使の肉体について記述している。

第3の夢

第3の夢は子供がガレージで大男にいじめられている夢だ。主人公はその有様を覗くが、大男に虐待をやめるように抗議するとふざけたような返事をされ、怒りに満ちて目を覚ます。やや長く細かい描写は省く。

特筆すべきは大男はそれをしながら”ソロモンの雅歌”を口ずさんでいることと、天井にぶら下がっているメリーゴーランドのような仕掛けについてであろう。つまり大男はその変な機械の動きに常に気を付け、伺っているのである。

それは真ん中に磨かれた立方体があって、その周囲を12人の巫女が回転している。巫女のうちの一人の顔が特別に恐ろしく、立方体にはそれらの顔が反射して映るのである。さてこれは何を意味するか。

大きくて恐ろしい一人の顔は天に昇って権威を受けたキリストの顔。他はその使徒。大男は恋人に対する愛の歌を歌うが、子供は容赦無く虐げられる。なぜそんなひどいことをするんだ?と抗議する主人公は子供の代弁者だが、相手にされない。

これはチベット仏教でいう”チョエニ・バルドゥ”である。つまりヨーガ行者は天上の神々の光輝に恐れをなし、逃げ惑い痛めつけられるが、それは無駄なあがきである。この夢についてはこれ以上言うまい。

第4の夢

第4の夢はバラ色の雌犬の夢;おそらく発情期の毛の抜けた雌犬はしつっこく主人公を追いかけてくる。この雌犬は交尾を求めている。フェレオルは夢であることを自覚しながらも、前述したキリストと使徒とを恐れているので、しきりに追い返そうとする。

姦淫の罪を恐れ、神々の前でそういう行為をしてはならないと考えているからである。しかしこれは間違いである。チベット仏教の仏の姿が明らかに男女交合の状態であることを思えば、気にする必要なんかない。

夢の中で目を覚ました主人公は捨てた恋人・カリタが愚かな笑みを浮かべてベッドに寄り添っているのを見る。その胸に発情した雌犬そっくりのたくさんの乳がぶら下がり、嫌悪感に満たされる。それは止まることのない永遠のセックスのはじめであるにも関わらず、キリスト教の禁欲の戒律が欲望の邪魔をする。

第5の夢

第5の夢は険しい山登りの夢だ;フェレオルはロック・クライミングのような格好で山登りをしていた。山の頂きに大きなバラ色の卵を見つける。主人公はこの卵を友人を傷つけるかペットを殺すような気持ちで割った。卵から汚れた汁が溢れ出し、服がびっしょりと濡れた。死の匂いが立ち込め、彼は鼻をつまんだ。

この夢は純粋な愛ではない人間的愛情の破壊の時の夢である。つまり夫婦の愛、家族愛、友愛など社会的に育まれた愛。隣人愛とでも言おうか。これを破壊する必要があるためにヨーガ行者は出家をする。それを断ち切る時、当然大きな悲しみが襲うので、主人公は激しく泣いたのであろう。

同時に隣人愛は死の味のする愛なのである。

第6の夢

第6の夢は車輪が一つしかない手押し車ですごいスピードで運ばれる夢。誰が車を押しているか、振り返ろうものならひっくり返って首の骨を折ってしまっただろう。これは信仰を試されるアブラハムの恐怖に例えられようか。

主人公はただひたすら”前を向いて”流れに身を任せるしかないのだった。

●次回に続く→【マンディアルグ】「大理石」 Ⅳ. 証人のささやかな錬金夢〜註釈(2)

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