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【ポリフィルス狂恋夢】「ヒュプネロトマキア・ポリフィリ」洋書レビュー〜難解な象徴と寓意のオン・パレード

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澁澤龍彦氏が『ポリフィルス狂恋夢』のタイトルで著作中紹介しているにも関わらず、邦訳は2019年に到るまで出てこなかった。魔道書の訳業やブログでも有名な大橋喜之氏のそれである。

しかしこの完訳は日本円で8000円近くもする。ということで筆者はアマゾンの洋書でThames & Hudson社のHypnerotomachia Poliphili, the Strife of Love in a Dreamを中古で購入した。価格はなんと1000円ほど。

澁澤龍彦

この本には実はある思い入れがあって、1990年代前半まだインターネットが普及していなかった時代に、何とか英語のバージョンを手に入れたいと奮起したにも関わらず無理だった。その満たされぬ思いがあったのである。

実に英語で470ページ近いボリュームでありたとえ母国語で書かれていたとしても読み進めるのは大変そうな内容。澁澤龍彦氏の紹介のような興味津々たると言うよりは、絵画的建築的寓意的象徴的表現が延々・延々と続く。

なので魅力的なルネサンス期のファンタジーのようなものを期待して手に取ると退屈するかもしれない。ほとんど絵画的描写の連続なのだから。その点マンディアルグの小説の原点を思わせるものがある。

ライン・アート

はっきり言って辞書をいちいち引いていたら読み終わるのはいつになるか知れたものではなかった。辞書に載ってない単語も数あることもそうだが欧米人で神話に精通していないと通じない表現も多々含まれている。

なので筆者は”美しい多数の木版画”が見れればいいやくらいの気持ちで、根性で最後まで目を通したということを述べておきたい。まずこの挿絵だがThames & Hudson社の本だとテキストの荘重で豪華な表現に対してほとんど漫画のような印象をさえ受ける。

プリントの過程でそうなったのかはともかく、定評ある”緻密”で美しい木版画とは笑わずには言えないだろう。だがこのライン・アートはオーブリー・ビアズレーなんかにも影響を与えたというほどだから、本物はもっと素晴らしいのかも知れない。

あらすじ

あらすじはWikipediaに書いてあるのであえて私がここで繰り返すこともない。またそれより深く内容を理解できたのでもない。この象徴的な本にはルネサンス期の錬金術の寓意や植物学、建築学もふんだんに織り込まれているという。

言われてみれば錬金術のシンボルが充満しているような気がしないでもない。しかし筆者はデカルトが勧めるように、あやしい学問には警戒しているので錬金術には踏み込めない。それは近代科学の未発達で行き当たりばったりな実験にしか思えないというのが本音だ。

まとめ

もしこの本を無理矢理でも通読できたなら、たいていの洋書はさほど苦もなく読み通せると思う。しかし1000円で多数の図版や摩訶不思議なテキストをちんぷんかんぷんな頭で味わえると思えば、実にお買い得な洋書である。

8000円払って日本語訳を読んだとしても理解できる保証はない。そういう内容の物語。ただ当時としてはかなり明から様に異教的、エロティックな表現がありとてもキリスト教の善良な修道士が書いたものとは思えない。

以上お粗末なレビュー、ご拝読いただきありがとうございました 😉 

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