ダンテ『神曲』解説(9)地獄篇:チアンポロの策略・偽善者の鉛衣・不死鳥の盗人

ダンテ【神曲】まとめ(9)〜「地獄篇」第22歌・第23歌・第24歌

ダンテとウェルギリウスの旅は、地獄第8圏「マレボルジェ」の中盤へ。ここでは滑稽さと残酷さが入り混じる表現が続き、詩人の筆にも熱と勢いが感じられるようになる。今回は第6〜8の濠を巡る。

第22歌──チアンポロと悪鬼たちの騒動

第5の濠、煮えたぎる瀝青の中を進む中で、悪鬼たちに守られた一団から、ずる賢い罪人が登場する。後に「チアンポロ」と呼ばれるこの男は、巧みに口八丁で鬼を翻弄し、黒い液体の中へ逃げおおせた。

怒った鬼たちは取っ組み合いを始め、二匹が誤って瀝青に転落する──翼まで焼けただれた様子に、地獄における滑稽な悲惨さが描かれる。

ブレイク『チアンポロと悪鬼』

▲ブレイク『チアンポロと悪鬼』

第23歌──偽善者たちと大祭司カヤパ

ダンテが悪鬼の報復を恐れていると、案の定彼らは背後から迫っていた。ウェルギリウスは彼を抱きかかえ、第6の濠へと逃れる。

そこでは、金色に輝くローブを身にまとう偽善者たちが列をなして進んでいる。しかしそのローブは鉛でできており、魂を圧し潰すような重みで彼らを責めている。

中でも地面に磔にされているひとりの男──それはイエスの死刑を宣告した大祭司カヤパである。重い偽善の衣に押し潰され、彼の上を罪人たちが通っていく。地獄における因果応報の象徴的な場面である。

第24歌──不死鳥と盗人の地獄

第7の濠に進んだ二人の前には、無数の毒蛇が蠢く谷が広がっていた。そこは盗人たちが罰を受ける場所。彼らは蛇に噛まれると、火花を散らして焼け焦げ、灰と化す。

しかしすぐにその灰は再構成され、元の姿へと蘇る──まるで不死鳥フェニックスのように。だがそれは「再生」ではなく「無限の苦痛の再現」である。

フェニックスの伝説は、古代エジプトの太陽神ラーに従う鳥ベンヌに由来し、夕に冥界へ入り、朝に再び昇る太陽と重ねられた。だがこの地獄では、その聖性は完全にねじれている。

罪人たちは蛇から隠れようと血宝石(エリトローピア)を探し求める。この石は所有する者の姿を見えなくする力があり、ボッカッチョの「デカメロン」にも登場する不思議なアイテム。

だが、ここ地獄に救いの石など存在しない。

まとめ

マレボルジェはあと三つ。さらにその先には第9圏が待ち受けている──そこは同心円状に4つに分かれ、巨人、裏切り者、ユダ、そして地獄の王が待つ。

長い巡礼の旅だが、地獄の底を目指し、いよいよ核心へと近づいていく。

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