ダンテ『神曲』解説(6)地獄篇:自殺者の森・灼熱の砂漠・恩師ブルネットとの再会

ダンテ【神曲】まとめ(6)〜「地獄篇」第13歌・第14歌・第15歌

ダンテ『神曲』全100歌を3歌ずつ紹介する連載の第6回。今回は第7圏の続き、第13〜15歌を取り上げる。罪と罰の象徴がより深く、幻想的に描かれる中盤の重要な節となっている。

第13歌──自殺者の森とハルピュイア

第7圏・第2環に進んだダンテとウェルギリウスは、陰鬱な森に足を踏み入れる。そこは「自殺者の森」と呼ばれ、葉のない木々がうめき声を上げていた。枝を折ると、そこから血が流れ、魂が叫ぶ──自ら命を絶った者たちの魂が木の姿に変えられているのだ。

彼らは最後の審判を迎えても、再び肉体を取り戻すことはできない。なぜならば、自らそれを拒絶したためである。ここには「命を断つ」という行為が神の意志への拒絶とされ、永遠の刑罰として表現されている。

ブレイク『自殺者の森』

▲ウィリアム・ブレイクによる『自殺者の森』

森の中にはハルピュイア(ハルピュイーアイ)と呼ばれる怪物たちが飛び交う。鳥の身体に女の顔を持ち、ギリシャ神話では呪われた存在として語られる。神曲では、不気味な不協和音として森に不安を加える存在となっている。

第14歌──灼熱の砂漠とカパネウス

第2環からさらに進むと、眼前に現れるのは焼け焦げた砂漠。そこには絶え間ない炎の雨が降り注ぎ、罪人たちが地を駆け回り、苦しみに喘いでいる。

この地にいるのは「神を冒涜した者たち」であり、古代ギリシャの将軍カパネウスがその代表格として登場する。神ゼウスを嘲り、雷で打ち倒された彼は、死後もなお傲慢な姿勢を貫きながら罰を受け続けている。

ブレイク『カパネウス』

▲ブレイクによるカパネウスの場面

この場面ではまた、地獄の四大河川の起源が語られる。クレタ島に立つ巨大な像の裂け目から流れ出す涙が、アケロン、ステュクス、プレゲトン、コキュトスの河となる──という壮大な神話的構図が示される。

第15歌──同性愛と師への敬意

第7圏・第3環では、同性愛(男色)の罪を犯した者たちが熱砂の下をさまよい続けている。ここでダンテが出会うのは、自らの恩師ブルネット・ラティーニ。彼は地獄に堕ちていながらも、ダンテは敬意をもって彼に接し、丁寧に対話を交わす。

この場面は、罪と人格、倫理と友情の複雑な関係を象徴しており、ダンテの人間的な深みと矛盾を印象づける。現代的に読むと、ここには中世的価値観と個人的感情との間で揺れる詩人の姿が見て取れる。

補足:神曲を描いた画家たち

今回紹介したウィリアム・ブレイクは、神曲の挿絵を独自の幻想的タッチで描いたことで知られる。また、フランスの版画家ギュスターヴ・ドレによる『神曲』全イラスト付き版も非常に有名で、視覚的に物語を楽しみたい読者におすすめである。

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