ダンテ【神曲】まとめ(4)〜「地獄篇」第7歌・第8歌・第9歌
『神曲』地獄篇も中盤へとさしかかり、物語はより劇的な展開を見せはじめる。象徴に満ちた不可解な言葉、神話的存在との遭遇、そして地獄構造の深化──このあたりから、作品は真に面白くなってくる。
第7歌──富の罪と運命の円環
第4の圏に登場するのは謎めいた存在「プルートン」。悪魔とも神ともつかぬ姿で、ダンテとウェルギリウスに意味不明な言葉を叫ぶ。
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ」(Papé Satàn, papé Satàn aleppe)
この呪文のような言葉の意味はいまだに不明であり、神学者や文学者たちの間でも解釈が分かれている。
続く場面では、浪費と貪欲という両極の罪人たちが、重い石を押し合い、罵り合いながら永遠に無意味な動作を繰り返す。富とは何か、所有とは何か──その本質に迫る象徴的な光景だ。ウェルギリウスは、世界の富は「運命の女神(フォルトゥナ)」によって絶えず回転し分配されており、人間の思惑など及ばないと説く。
第8歌──ステュクスと灼熱の塔「ディース市」
第5圏に進んだ二人は、怒りの罪人が沈むステュクスの沼地を渡ることになる。ここで現れるのが、渡し守プレギュアス。神話的にはアポロンの神殿を焼き払った罪で罰せられた人物である。
炎に包まれた都市「ディース市」の城壁が遠くに現れる。その赤熱した塔の中に潜むのは1000を超える悪魔たち。ウェルギリウスが交渉を試みるが、門は閉ざされ、中に入ることを拒まれる。
第9歌──メドゥーサと復讐の女神たち
絶望の空気が漂うなか、城壁の上には血まみれの復讐の女神(エリーニュス)が現れる。彼女たちは「メドゥーサを呼べ!」と叫び、ウェルギリウスはダンテの目を覆って「石にされるぞ」と警告する。
ギリシャ神話のモチーフがここで混在し、詩は神話的イメージの奔流に飲み込まれる。読者は物語の中で迷宮をさまようような感覚を覚えるだろう。
やがて天界からの神的な使いが現れ、灼熱の門は静かに開かれる。そしてダンテとウェルギリウスは、第6圏へと進む。そこでは、異端とされた者たちが、火を噴く石棺の中で苦しみ続けている。
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