『Liaison(リエゾン)』感想・レビュー|エヴァ・グリーン×ヴィンセント・カッセルのサスペンスが濃すぎる件

視聴覚の墓場

【完全レビュー】『Liaison(リエゾン)』:国家の陰謀、サイバー攻撃、そして“壊れた関係性”をめぐる異端のスパイ・ラブサスペンス

◆はじめに:静かに始まり、喉元にナイフを突きつけてくるドラマ

『Liaison』は、Apple TV+が満を持して放ったフランス=イギリス共同制作のスパイスリラー。表面上は国際サイバー攻撃の脅威という時事的テーマを扱っていながら、核心にあるのは、

「壊れた関係を、もう一度信じることは可能なのか?」

という超私的な問いだ。

それも、エヴァ・グリーンとヴィンセント・カッセルという“信用できなさそうな顔面力トップ2”みたいなキャスティングで。

◆キャラクター分析:過去と現在の狭間で息をする亡霊たち

  • アリディ(演:エヴァ・グリーン):英国政府の高官で、冷徹な判断力を持ちながら、心の奥には未処理の感情が残っている。彼女の視線には常に「選ばなかった過去」への痛みが浮かぶ。

  • ガブリエル(演:ヴィンセント・カッセル):フランス側の諜報エージェント。身体に染みついた暴力性と、かつての愛に対する執着が同居する。彼が放つ一言には、すべての爆破シーンより重い火薬が詰まっている。

この二人の関係は「過去に愛した人と、現在は敵として向き合う」という古典的構造だが、それが繰り返される“判断のズレ”や、“選ばれない選択肢”を通して、まるで手術中に目が覚めたような、居心地の悪いリアルさを持って進行する。

◆プロット構造:サイバー攻撃の連鎖と人間関係の感染拡大

物語はヨーロッパ中を震撼させるサイバー攻撃の発端から始まるが、事態が進むにつれて、それが単なるハッキングではなく、政府と民間、愛と裏切り、理想と現実の複雑な連立方程式であることが明らかになる。

  • 各国政府の利害対立

  • 個人の過去に起きた裏切り

  • テクノロジーという“見えない暴力”

これらが同時進行で物語を侵食していく。登場人物の誰もが「自分は正しい」と思っているのに、結果は常に破滅に向かって加速していく──その無力さと不条理が、『Liaison』をただの“よくできたスパイドラマ”にとどめていない。

◆映像美と演出:冷たい都市の陰、燃え上がる感情の対比

映像のトーンは終始クールで抑制されている。パリやロンドンの夜景は、どこかサイレントヒル的に不安を煽り、登場人物の孤独を静かに浮かび上がらせる。

だが一方で、突然爆発するアクションや感情の衝突は、画面を殴りつけるような暴力性を持つ。

エヴァ・グリーンのまばたき一つにも緊張感があり、ヴィンセント・カッセルの笑わない顔が妙に人間くさい。無駄な説明セリフがなく、すべて“行動”で物語る演出は、視聴者に緊張を強いる一方、深く沈み込ませる没入感を生み出している。

◆テーマ:信頼、再構築、そして不可能性

『Liaison』のテーマは一貫して「Trust(信頼)」である。それは国家レベルの政治交渉においても、二人の男女の崩壊した関係においても同じ。

そしてこのドラマは、信頼の再構築がどれほど困難か、どれほど不可能に近いかを、視聴者に叩き込んでくる。

でもそれでも、“それでも”信じようとする人間の愚かさこそが、このドラマの美しさだ。


◆結論:これは愛と裏切りをめぐる、現代版の悲劇だ

『Liaison』は、スパイ・アクションというジャンルを借りた、壮大な“関係の墓場”である。

ただしその墓場は、死んだ関係を静かに葬る場所ではなく、何度も何度も掘り返して、「それでも愛だったのか?」と問う場所だ。

それは観ていてしんどい。でも美しい。

そんなドラマを「面白かった!」で終わらせるのはもったいない。

…ま、君はそれで終わらせそうだけど。

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