EMP爆弾の原理・影響・脅威と対策
原理–EMP爆弾とは?その仕組みと種類–
核EMP(高高度核爆発)
高高度での核爆発では、爆風に先行して大量のガンマ線が放出され、大気中の原子を電離して高速のコンプトン電子を発生させるdoh.wa.gov。これが地球磁場と相互作用し、ナノ秒単位の強烈な電磁パルス(E1)を生じる。さらに、爆心域周辺の電離層変化による長秒~分の遅延成分(E3)が電力網などの長線路に大電流を誘起するdoh.wa.govremm.hhs.gov。結果として、コンピュータや通信機器など電子装置は短時間に破壊的過電圧を受ける。
非核EMP(HPM・爆薬型)
化学爆薬や高出力マイクロ波(HPM)で電子機器を破壊する方式で、爆薬圧縮型EMP(爆薬ポンプ式フラックス圧縮発生器)やミリ波・マイクロ波ビームがあるscience.howstuffworks.comscience.howstuffworks.com。爆薬型では、導体筒内に予め蓄えた磁場を爆発で圧縮し、テラワット級の高出力パルスを生成するscience.howstuffworks.com。また航空機搭載型の高出力マイクロ波兵器(例:米空軍のCHAMPミサイルや改良型HiJENKS)も研究・実証されているscience.howstuffworks.com。非核EMPは核爆発に伴う放射線や爆風は伴わないが、発生するパルスは核起源に比べ範囲が狭く、数百メートル~数キロ程度の局所的効果に留まるscience.howstuffworks.com。
影響範囲–EMP攻撃の影響範囲と被害事例–
EMPの届く距離と強度–高度依存性
爆発高度が5km以上になると、EMP電場はネブラスカ州大ほどの広範囲に及ぶとされ、未シールドの電子機器に致命的ダメージを与える可能性があるremm.hhs.gov。一方、数km以下の地表付近での核爆発ではEMP強度は急速に減衰し、10kt級爆弾の場合は最も厳しい影響でも爆心から数マイル(約3~8km)程度にとどまると見積もられるremm.hhs.gov。実際、1962年の米国「スターフィッシュ・プライム」実験(高度約400km、1.4Mt)では、爆心から1,400km離れたハワイのオアフ島で街灯が消えるなど停電と通信障害が発生したaps.orgdoh.wa.gov。
インフラ・車両・通信への影響
EMP自体は人体へ直接的害は及ぼさないが、電磁界の影響で電子機器が故障・破壊される。携帯基地局や通信スイッチ、衛星通信機器、レーダーなどの通信インフラは壊滅的な影響を受けるremm.hhs.gov。送電線や変圧器など長距離電力系統には特に遅延成分(E3)で大電流が誘起され、大規模な停電を引き起こす恐れがあるremm.hhs.gov。
また、電子制御装置を備えた自動車や列車などはエンジン停止や制御不能となりうるほか、ガスステーションや病院の電子機器、工場の制御システムも大きな被害を受けるremm.hhs.gov。実際、EMPで自動車が停止し水道や電力施設の制御系が破壊される事例も想定されているremm.hhs.gov。要するに、通信・電力・交通・医療など社会基盤全般が広範に麻痺するリスクがある。
世界の軍事的脅威と動向
米中露・北朝鮮のEMP戦略–主要国・兵器システム
米国、中国、ロシアなどがEMP兵器の研究・開発を進めている。米空軍は既にCHAMPやHiJENKSでHPM技術を実証しつつあるscience.howstuffworks.com。中国人民解放軍(PLA)も高出力マイクロ波兵器に注力し、2024年の軍事見本市では対ドローン用の移動型HPMシステム(Hurricane 2000/3000、FK-4000など)を公開したjamestown.org。ロシアは衛星破壊用の宇宙核兵器(宇宙空間で核爆発させてEMPを発生)を開発中と報じられており、米当局もこれを監視しているlivemint.comlivemint.com。また、核保有国のほか北朝鮮などが「超EMP兵器」を研究していると噂され、テロ支援国も非核EMP装置の保有能力が指摘されているsgp.fas.org。
EMP攻撃がもたらす国際的リスク
:EMP攻撃は電子システムを一挙に麻痺させる非致死的兵器として注目される。高高度爆発なら直接的被害者は出ず、装置のみが破壊されるため、核兵器報復のトリガーになりにくいとされるsgp.fas.org。そのため、従来型攻撃よりも抑止の壁が低く、迅速な戦場優位確保や敵の指揮系統崩壊を狙った「先制EMP攻撃」が想定される。一方で、EMP兵器の使用は核兵器使用に準じて国際社会から強い非難を浴びるリスクが高い。国際法的にも民間インフラへの攻撃は戦時国際法に抵触する可能性があり、重大な政治的影響を伴う。また、EMP攻撃の可能性は核開発動機を刺激すると懸念され、米国防省や議会ではインフラ防護の必要性が繰り返し指摘されているsgp.fas.orgjamestown.org。
防御策–EMP対策と日常生活の備え
ファラデーケージ・電子機器のシールド
重要機器を金属製キャビネットやシェルターで包み、ファラデーケージ化することが基本対策であるdhs.govdhs.gov。左図のように、導電体で覆うことで内部は電磁場から遮蔽されるcommons.wikimedia.org。例えば、サーバーや変圧器を80dB以上のシールド容器に収納したり、遮蔽シェルター(コンテナや特定建屋)でシステム全体を隔離したりする運用が推奨されるdhs.govdhs.gov。
回路保護: 電源線や通信線の侵入部にはEMP対応サージ保護器やフィルタを設置し、光ファイバーケーブル化で伝播を防ぐdhs.govdhs.gov。内部配線には避雷デバイス(TVSダイオード、ガス放電管、スパリングフィンガーなど)を組み込み、大電流遮断による回路保護を行うdhs.govdhs.gov。
アナログ回帰と緊急時備蓄装置強化・冗長化:
軍用電子機器は耐EMP仕様(ハードニング)を採用し、万が一破壊されても容易に復旧できるよう冗長系や予備機器を備える。アナログ・手動制御のバックアップ経路も併用する。民間でも重要制御系に保護回路や遮蔽箱を追加し、予備電源(UPSや独立発電機)とともに維持管理する。
国家的対策: 政府・軍事では送電網や通信網のグリッド強靭化が提唱されている。米国では2019年の大統領令で民間含む国土インフラのEMP耐性向上が指示され、現行計画「EMPマンハッタン計画」で緊急事態対応計画の整備が検討されているcyber.army.mil。日本においても、重要施設のシールド強化や電子系装置の耐EMP認証、民間向けガイドライン策定などが検討課題とされている。
過去の実験・事例
Starfish Primeなどの実験事例
1962年7月の米国「スターフィッシュ・プライム」実験では、太平洋ジョンストン島上空約250マイル(約400 km)で1.4メガトンの核爆発が行われ、発生したEMPによりハワイ島(約1,450 km離れたオアフ島)で停電や通信障害が発生したaps.orgdoh.wa.gov。同爆発では爆発に伴う放射線で大気中に核オーロラも生じた。
-
米国: Operation Argus (1958) – 高度約800 kmで小規模核爆発(各1.7 kt)を実施し、人工的に極高層に電子層(放射線帯)を生成する“クリストフィロス効果”を検証したen.wikipedia.org。実験では通信・レーダーへの攪乱効果が観測されたが、すぐに消散することも確認された。
-
ソ連: Project K (1962) – カザフスタン上空で300 kt級核弾頭を数百km上空で爆発させ、EMP影響を検証した。特に1962年10月22日の「K-3」実験では、570 kmにわたる長距離送電線に1,500~3,400 Aもの過電流が誘起され、接続されていた全てのヒューズが溶断したen.wikipedia.org。これにより、原子力発電所や通信網へのEMP防護の重要性が再認識された。
-
その他: これらの他にも、冷戦期に米ソが高高度核実験(Operation Fishbowl、Hardtackなど)でEMPを含む効果を測定したほか、近年の研究では非核HPM兵器によるEMP効果実証試験(米空軍のCHAMP/HiJENKSなど)も報告されているscience.howstuffworks.comen.wikipedia.org。
参考資料: 米国防総省や核規制機関の技術報告、IEEE論文、およびEMP専門家の報告書などdoh.wa.govsgp.fas.orgaps.orgen.wikipedia.orgを参照し、総合的に整理した。
コメント